『池袋ウエストゲートパーク』最新刊は、狂った酷暑をスマートに冷やすこの夏のマストアイテムだ。

獣たちのコロシアム 池袋ウエストゲートパークXVI

 ども、終わることを忘れてしまったようにつづく真夏の狂った陽射しのした、皆さん、いかがサヴァイヴしておられるでしょうか。

 ぼくは三日ほどまえついに肉体が滅び、その後はエアコンゾンビと化して空調の効いた部屋にひきこもっていました。いつものことながら灼熱の炎天下から涼しい屋内へ入る瞬間の冷却感がたまらないよね。

 とはいえ、まあ、いくら怠惰なぼくであってもいつまでも科学の利器とヴードゥーの巫術に頼っているわけにもいかないので、しかたなく先ほど一時蘇生して夜食を買って来ました。うん、真夜中ならどうにか外出できる。

 もっとも、あしたの気温は人体も発火しかねない37℃ということで、もういちどゾンビに戻るべきか迷うところ。

 ゾンビには学校も試験もリストラも首相辞任も関係ないわけで、いったんひきこもったら出て来れなくなくなるわけだよなあとしみじみ感じ入りますね。

 社会的ひきこもりならぬ空調的ひきこもり。夜になると外出するという意味ではゾンビよりヴァンパイアに近いかも。

 そうはいってもいまのご時世、処女の生き血はとうてい望めず、せいぜい冷えたポカリを流し込むくらいが関の山であるわけですが。

 そういうわけで、とりあえず冷房が効いているあいだはぼくの肉体もかろうじて活動を続けてくれています。

 幸いというか、この頃は部屋を出なくても欲しいものがいくらでも手に入るわけで、先ほど上梓された『池袋ウエストゲートパーク(16)獣のコロシアム』をダウンロードして読んでいます。

 1冊目、2冊目くらいは切れば果汁が飛び散るくらいフレッシュだったこのシリーズも、数えること16冊目ともなると、もうマンネリも良いところ。

 ただ主人公のマコトによる一人称の切れ味はいまだ衰えるところを知らず、それなりには楽しめます。

 いや、わざわざ発売日に購入していることからもわかる通り、大好きなんですよね、このシリーズ。

 ほぼマコトとヤクザのサルや、池袋ストリートのキング・タカシのシニカルなやり取りがすべてで、事件はおまけみたいなところはあるものの、それはそれで十分に楽しい。

 初期の鋭いテンションが忘れられないという向き以外は、今回も特に文句なく楽しめることでしょう。タピオカネタはすでにちょっと古くなってしまっている印象はあるけれどね。

 ご存知ない方向けにこのシリーズの魅力を解説するなら、つまりは池袋のストリートを舞台にしたハーフ・ハードボイルド探偵もの。

 池袋西口公園(ウエストゲートパーク)の近所に暮らす真島マコトは果物屋として働く一方、凄腕トラブルシューターとして活躍し、さまざまな難事件を追いかけていきます。

 事件そのものやその解決法にさほどの新味があるわけではないんだけれど、その時々で時流を取り入れていることが特徴で、したがってリアルタイムで読むことがいちばん面白いと思われます。

 べつに読んでから死ね!というほどの名作ではないかもしれませんが、ぼくとしては毎年一回の刊行を楽しみにしている作品なのです。

 いや、しかし、昨年の刊行からもう一年経ったのか。光陰矢の如しにして少年老い易く学成り難し。ぼくも日がな一日ゾンビなんてやっていると、あっというまに人生が終わるかも。

 だいたい歳を取ったヲタクの晩年はみじめなもので、そもそもロールモデルがどこにもいない。

 年上のヲタクの有名人は時代に遅れまくって70年代だの80年代だのを理想化しつつ回想している始末ですから、もうどうしようもない。

 未来を見ろとまではいわないから、せめて現代くらいは直視してほしいものなのですが。

 毎年数回、マコトを憑依させているはずの石田衣良さんもいいかげん良い歳のはずなのですが、ことスマートでスタイリッシュな文章を書くことにおいてはこの人のセンスはやはりずば抜けている。

 あまりにも読みやすくて、ほとんど小説を読んでいる気がしません。耳もとでマコトがぶつぶつ呟いているみたい。

 いまさらだけれど文章が上手いよなあ。冷房で冷え切ったエアコンゾンビの体温をさらに二、三度は下げてくれそうな爽快クールなリーダビリティ。

 かなり無残な事件を取り扱ってはいるんだけれど、それでも読後感はさっぱりしていて後を引かない。ふだん小説を読まない人でも十分に楽しめそうなくらい素晴らしいです。

 シリーズとしての頂点は第二巻あたりで究めてしまっていると思うのですが、その後も一定のクオリティを保ちながらこの夏のようにいつ終わるとも知れずつづいてゆくシリーズが、ぼくはほんとうに好きでなりません。

 できればこの先、20年くらいこのままのスタイルで書きつづけてほしいものです。そうすればきっと島耕作シリーズに匹敵するくらいの一大年代記として記憶されることでしょう。

 まあ、ぼくは島耕作よりマコトのほうがずっと好きだけれど。何しろ、マコトの年収は島耕作の数十分の一と思われるので、はるかにぼくに近い。

 この狂乱の夏にオススメのエンターテインメントです。未読の方は、第一巻からどうぞ。面白いよ!

池袋ウエストゲートパーク

池袋ウエストゲートパーク

  • 作者:石田 衣良
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版

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 海燕(@kaien)。1978年生まれ。男性。ヲタク。汎発(全身)性円形脱毛症で闘病ちう。

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