見て驚け、『のび太の新恐竜』は『映画ドラえもん』史上最高傑作を争うリベラルな多様性の賛歌だ!

 今年の『映画ドラえもん』は傑作だ!

 この夏の『映画ドラえもん』が面白い。題して『のび太の新恐竜』。映画第一作にあたる『のび太の恐竜』の『のび太の恐竜2006』に続く二度目のリメイクであり、『ドラえもん』50周年を飾るにふさわしい、ちょっとびっくりするくらいの傑作である。

映画ドラえもん のび太の恐竜2006
 

 正直、原作者の晩年から逝去してからしばらくの作品は、個人的には初期作品に及ばない出来に思え、敬遠してきた。

 だが、ここ数年の良作を経た『新恐竜』は、ここに来て長大なシリーズ中でもベストを争う出来、基本的なアイディアそのものは過去の焼き直しであっても、内容的には初期の伝説的な傑作群に匹敵し、あるいは上回る歴史的な作品といえるだろう。

 コロナ禍の真っ最中ではあるものの、ぜひ劇場に足を運んで見てほしい映画だ。

二匹の新種恐竜と「親」としてののび太。

 物語の始まりは、のび太が化石の採掘場から大きな石ころを拾ってくるシーン。その石は恐竜の卵に違いないと確信するのび太は「タイムふろしき」で時間を逆行させる。

 翌朝、数千万年の時をさかのぼった卵からは双子の新種恐竜が生まれ、のび太にその鳴き声からミューとキューと名付けられる(ちょっと安直なネーミングだ)。

 ところが、生まれてからすぐ食欲旺盛で自在に空中を滑空するミューに対し、キューは小柄な体格で、なぜか空を飛ぶことができない「障害」を抱えていた。自分と同じように欠けた一面を持つキューに、のび太はしだいに深く思い入れしてゆく。

 自然界にあって不適格ともいえる弱いもの、無力なものにつよく感情移入するそのあり方はいかにものび太らしく、また『映画ドラえもん』らしいといえるだろう。

弱いことは悪なのか?

 そして、本作では、空を飛べないキューの存在を軸に、はたして弱いこと、欠点を抱えていることは悪なのかという問いがシリアスに問われる。

 そこには50年にわたってのび太の「弱さ」を正面から描いてきた『ドラえもん』の最新作として、こここそがこの作品の最大のテーマなのだという制作スタッフの確信が感じ取れる。

 映画を最後まで見ればわかるが、このテーマはリベラルな多様性の賛歌につながっている。ある角度からは「欠点」としか捉えられないものが、べつの角度から見れば大きな可能性かもしれないという視点。

 しかし、一方で本作の脚本家である川村元気がプロデューサーを担当した『天気の子』に象徴されるように、これから社会のリソースが不足するにつれ、そういった「優しい論理」を貫くことはいっそう困難になっていくだろう。

 いままでの物語では「世界を救うか、弱者を守るか」という選択を迫られたとき、主人公は「その選択そのものを無効化する第三の選択肢」を都合よく見つけて問題を解決することがしばしばだった。

 これは『のび太の新恐竜』においても基本的に変わらない。襲い来るカタストロフに対してのび太たちが打つ会心の一手は爽快な映画的カタルシスにあふれているが、現実にはそのような「第三の選択肢」は存在せず、決断を迷うことは破滅にしかつながっていかないかもしれないのだ。

 しかし、『映画ドラえもん』は終盤のきわめて過酷な状況において、それでもなお「優しい論理」を貫徹しようとする。そこには『ドラえもん』とはまさにそのような物語であるというつよい矜持がかいま見える。

 『ドラえもん』という作品は、じつに半世紀にわたってのび太という非力非才の少年を通し、子供たちの「弱さ」に寄り添ってきた。そのことがどれほど多くの子供たちを励まし、勇気づけ、前へと進む力を培ってきたことだろう。『のび太の新恐竜』はその最新版なのである。

「枷」を超えてゆく。

 また、本作は過去作と決定的に異なっている一点が存在する。いままでの『映画ドラえもん』では、しばしばクライマックスでタイム・パトロールがデウス・エクス・マキナ的に登場し問題を解決する展開が見られた。

映画ドラえもん のび太の日本誕生
 

 これは『映画ドラえもん』の構造的問題といえるかもしれない。子供たちがどれほど破天荒な大冒険をくり広げても、そこにはあくまでタイム・パトロールという「枷」が嵌まっていて、その範疇でしか行動できないわけだ。

 しかし、本作においてはクライマックスにおいて、のび太たちはタイム・パトロールの大人の論理に決然と対抗する。これはリメイクでありながら決定的に新しいポイントだろう。じつに素晴らしい。制作スタッフの英断に拍手を送りたい。

 この暑すぎる夏、のび太と仲間たちの大冒険を楽しまれることをお奨めするしだいだ。子供向け映画とあなどるなかれ。『ドラえもん』は50周年を経て、いまなお変わりつづけている。

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 海燕(@kaien)は現在、ライティングのお仕事を募集ちうです。アニメ、マンガ、ゲーム、映画、心理、生きづらさなどの記事を得意としています。ご依頼、その他のご連絡がある方は「kenseimaxi@mail.goo.ne.jp」までメールでご連絡ください。