ライトノベルは支那そばに戻れない。


 この頃、「最近のライトノベル」という言葉を嫌いになりつつある。その理由は簡単で、往々にしてその後に否定的な言葉が続くからである。

 曰く、最近のライトノベルはダメになった。曰く、最近のライトノベルは萌えばかりで退屈だ。曰く、最近のライトノベルはワンパターンも良いところだ。とにかく、肯定的な言葉が出てくるのをめったに見かけない。

 それがライトノベルの実像を客観的に眺めた末の意見なら仕方ないが、往々にして感情的意見に過ぎないように思えるのだ。で、そのとき、必ずといっていいほど名前を挙げられるのが十年以上前、ライトノベルが「ヤングアダルト」と呼ばれていた頃の作品たちだ。

 「最近のライトノベル」を貶める一方で、「昔はまだ良かったんだけどな」とやるのがひとつのパターンになっている。これも、昔の「ヤングアダルト」作品のほうが絶対的に質が高かったというなら仕方ない話だが、ぼくにはそういうふうには思えない。

 そして、それにもかかわらず、「最近のライトノベル語り」は大量生産し続けられているわけだ。いったいいつからこんなことになったのだろう?

 たしかに「最近のライトノベル」を飾るイラストレーションが「萌え系」と呼ばれる絵柄に偏っていることはたしかだろう。それはライトノベルのひとつの欠点であるかもしれない。しかし、だからといって作品の中身を見ずに鎧袖一触で否定してしまうことはいかにももったいないように思う。

 ライトノベルをラーメンにたとえるなら、かつてのライトノベルはいわゆる「支那そば」であったかもしれない。素朴でシンプル。決して美味しくないわけではないし、飽きが来ない味ではあるが、派手な魅力には欠ける。

 しかし、いま、ラーメンもライトノベルもより濃密な快楽を重視するようになったように思える。ライトノベルの話に戻すと、最近は、昔だったらメインヒロインひとりふたりを出して済ませていたところを、何人ものそれぞれタイプの異なるヒロインを出さないとなかなかヒットにはたどり着けない、というところまで来ている。

 また、物語は長大になり、設定にしてもより複雑怪奇に入り組むようになっている。これを、一様に進歩といえるかどうかはわからない。昔の素朴な「支那そばの味」が恋しい、という人はいて当然だろう。

 しかし、それでもなお、時代は逆行しない。ラーメンが支那そばの時代に戻れないように、ライトノベルも昔には戻れないのである。いったん濃密な快楽を味わってしまった人びとの感覚は、決してそれ以前の作品では充たされないだろう。どうしてもよりディープな快楽を求める方向に進歩してゆくしかないのだ。

 もっとも、いまでもシンプルなラーメンを出している名店があるように、シンプルな作品も、ほそぼそとではあるが生き残っている。とはいえ、それがいつまで生き残れるかはわからない。過去の名作群も、やがては淘汰されてゆくだろうと思う。

 なぜか。それは結局、ひとが貪欲に快楽を求める生き物だからである、というしかない。フィクションにおいてもラーメンにおいても、快楽は増大する方向にしか進まない。

一度濃密な快楽を味わったら、もう二度とより素朴な「味」で満たされることはないのだ。時おり昔の味を懐かしむことはあるにしろ、感性そのものが昔には戻れないのである。

 こうして、ライトノベルはより過激に、より濃密になってゆく。もちろん、それもどこかで限界が来るはずだ。しかし、その限界が実際にやって来るまでは、この「進化」は止まらないだろうと思う。

 これはもう、良かれ悪しかれそういうものだというしかない。テレビゲームでも何でも同じことである。大人は昔の素朴な遊びをなつかしむが、子供たちはそれには目もくれない。それと同じこと。

 そういう意味では、川原礫ソードアート・オンライン』あたりはさしずめ「トッピング全部のせ」のゴージャスラーメン、ということになるであろう。

 そこには往年のヤングアダルトの冒険物語があり、現代の萌え美少女があり、さらに独自のSF設定があり魅力的なキャラクターがある。『ソードアートオンライン』はおそらく、クラシックライトノベルのファンをも満足させるものだろうと思う。

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

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 いくら時代が逆行しないとはいっても、「萌え」に奇形的に特化した作品は飽き飽きだ、という声もわかるので、ライトノベルはさらにべつの方向に進歩することが求められていると感じる。

 それは決して「昔のようにやる」ということではない。ただ、快楽増進の法則に従って、「萌え」以外の方向でもさらなる快楽を追求することになるだろう。可能性は、いつも未来にしかない。


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