映画『けいおん!』は勝ったのか?

映画けいおん! 108マイクロピース 「唯、あずさロンドンスタイル」 M108-116

 ぼくはまだ見ていないが――というか、テレビ版を途中までしか消化していないので、あえて見に行く気になれなかったのだが、映画『けいおん!』は大ヒットを遂げたようである。

 動員100万人を突破し、興行収入では15億円を超えたという。深夜アニメの劇場化作品としては、未曾有のヒットということができるだろう。

 Wikipediaによると、同じ京都アニメーション制作の『涼宮ハルヒの消失』の興行収入が8億4000万円程度というから、『ハルヒ』を大きく上回るヒットを飛ばしたことになる。『ヱヴァンゲリヲン劇場版』あたりには少し及ばないようだが、これは比べる相手が悪い。

 ここまで来るともう、一部のマニアだけにとどまる人気ではありえないわけで、京アニの丁寧な作画作劇の勝利ということになると思う。

 あたりまえのことだが、この成績について、ぼくは何の文句もない。文句というほどではないにしろ、ちょっと疑問があるのは、この成功劇の語られ方である。

 この大成功を受けて、「アンチ」に対する勝利を高らかに宣言する『けいおん!』ファン(と思われる書き込み)をまとめサイトなどで見かけたのだが、あれはどういう心理なのだろう、と思ってしまうのだ。

 ごく当然のことだが、興行収入的に成功したからといって、映画の出来が良いということにはならない。興行成績と映画のクオリティが、全く無関係だとはいわないが、しかし等分で結べる関係にもないはずである。

 大ヒットしたもののすぐに忘れ去られてしまう映画などいくらでもある。それにもかかわらず、少なくない人が『けいおん!』の大ヒットを作品の成功とイコールで捉えているように見えることには困惑させられる。

 ぼくはべつに映画『けいおん!』の出来が悪いといっているのではない。見ていないのだから出来云々を語れるはずもない。ただ、アニメの興行に勝敗という概念を見ることはいかにもばかばかしいと思ってしまうだけだ。

 いや、制作者サイドが大ヒットを成し遂げて「勝った!」と騒いだり、興行的失敗を受けて「負けた……」と落ち込んだりすることには、まだしも意味があるかもしれない。しかし、一ファンに過ぎない人間が、あえて作品の興行的成功に踊らされることにどんな意味があるのか。

 むろん、自分の好きな作品がヒットしたら嬉しいし、コケたら悲しい。そこまでは理解できる。だが、ヒットしなくても傑作は傑作である(『マイマイ新子と千年の魔法』を見ろ!)。反対に大ヒットしても凡作は凡作だ(こちらは、例を挙げるのはやめておこう)。

 興行成績だけで勝った負けたとはしゃぐことになど、何の意味もないではないか、と思わずにはいられない。

 それにしても、いったいいつごろからアニメの視聴率や、商品の売り上げを作品の成功失敗と連動させて考える人びとが出てきたのだろう。たぶん「覇権」だの「オワコン」だのと言い始めた頃にさかのぼるのかもしれない。

 本来、オタクとは、世間の流行とは少し離れたところで自分の趣味を追求している人間だったはずだ。オタク文化自体が世間の流行りとはべつのところにある文化であり、オタクを選ぶことは傍流であることを選ぶことにほかならなかった。

 ところが、その後、オタク文化はより巨大になり、より洗練された。そして、オタク文化がより一般的になり、オタクを名乗ることに対する抵抗感が薄れた結果、オタクを名乗りながらも実態としては「みんなと同じ」ではないと気が済まない人間が増えてきたのだろうと推測する。

 「みんなと同じ」であることが「勝ち」であり、「だれも見ていないアニメをひとりで見ている」ことが「負け」であると考えるような価値観、それはまさに一昔前の「普通の人」そのものだ。

 オタクはいま、「普通の人」に侵食されつつある。しかし、皮肉なことに、より広い視点で見れば、その「普通の人」は過去の概念になりつつある。もはや「みんなが見ているテレビ番組」だの、「みんなが聴いているポップミュージック」だのは存在しない。「普通の人」はもはや必ずしも「普通」ではないのである。

 そういう「(かつての)普通の人」的価値観でいえば、映画『けいおん!』は勝ったのかもしれない。が、ぼくにはそんなことはどうでもいい。

 ぼくには、自分にとってそれがおもしろいか否か、ということのほうがずっと重要であり、そして、どうやら『けいおん!』はそういう観点から見ても楽しめそうな作品である、ということは喜ばしいことだと思う。

 作品がディスク化する前に、さっさとテレビ版を消化しておこう。たとえ誰が否定しようが、ぼくは自分が見たい作品を見るのだ。それがオタクじゃないか。

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