『トワイライト・サーガ』。

 再開直後から絶賛放置中の「Something Orange」であるわけですが、あまりに長いあいだ放置するのもいかがなものかと思うので、最近読み返した小説の話など。

 栗本薫の『トワイライト・サーガ』です。当時、早稲田に通う大学生だった栗本が書いた「トワイライト・シリーズ」と題された短編群をまとめた二冊なのですが、いやあ、素晴らしい。日本で書かれた小説のなかではおそらく最も「らしい」ヒロイック・ファンタジーなんじゃないかな。

 時は豹頭王グインが活躍してから何千年が過ぎ去ったともしれぬ世代。惑星そのものが黄昏時を迎え、妖しい妖魅たち、失われた魔法たちがふたたびこの世を席巻しはじめた頃、未だ魂の健康を保つ草原の勇者ヴァン・カルスと、闇王国パロの至宝ともいうべき王子ゼフィールは長い長い旅に出る、というお話。

 剣を取っては向かうところ敵なしの壮健な青年と、暗い美貌をもつ魔法使いの王子という組み合わせが、次々と怪事件に遭遇する、という形式は、ある種の「バディもの」といえなくもないのですが、そのバディの間に妖しい愛が仄見える辺りは栗本作品ならでは。

 そこにゼフィール王子はかつてヴァン・カルスが愛した姫君の生まれ変わりで、などという「言い訳」が入る辺り、未だボーイズ・ラブなる概念が存在しない時代であることを思わせます。

 直接的な描写などは一切ないので、いま腐女子と呼ばれる人たちが読んでもおもしろくないかもしれません。しかし――それでもなお、これは絶品です。何より、世界そのものが年老い、永遠の夜に落ちかけている時代、という設定が素晴らしい。

 そして、その世界を絢爛と彩る暗い色彩の妖怪たち、魔物の数々。かれらは例外なくゼフィール王子の美貌に惹かれ、その悪魔的な欲望を叶えるべく襲いかかってきては番犬のごときヴァン・カルスに斬り殺されるわけですが、しかしその淫靡な退廃の魅力よ! 

 『グイン・サーガ』の読者には、この時点で既にジェイナス神とドール神の相克、草原と文明の対立、闇王国パロス、古代帝国カナンといったのちに『グイン・サーガ』を形づくる要素が出そろっていることも一興でしょう。

 若き栗本薫ロバート・E・ハワードのファンであったことは周知の事実ですが、この本は最近二冊も新訳本が出たクラーク・アシュトン・スミスデカダンス、そして「魂の暗さ」を思わずにはいられません。

 あとまあ、おそらくエイブラハム・メリットの『イシュタルの船』が元ネタと思われる描写があったりして、ああ好きだったんだなあ、と思わせますね。

 この時代からさらに時が過ぎ、世界が暗やみに覆われた「真夜中の時代」を舞台にした物語が『グイン・サーガ外伝』であるところの「悪魔大祭」です。しかし、この黄昏の時代、世界は未だ光を失わず、双面神ジェイナスへの信仰は衰えたりといえども消えやらず、邪悪のドールは世界を統べるには至っていません。

 そしてその暗い世界をさすらうように旅するふたりの若者は、数しれぬ冒険をくぐり抜け、ついに世界の果て「カリンクトゥムの扉」にまで至ります。

 『トワイライト・サーガ』、いまは亡き作家の才気が縦横に充ちた傑作です。素晴らしい!