三つの『秒速5センチメートル』。

秒速5センチメートル [Blu-ray]

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小説・秒速5センチメートル (ダ・ヴィンチブックス)

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秒速5センチメートル(1) (アフタヌーンKC)

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秒速5センチメートル(2) <完> (アフタヌーンKC)

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 漫画版『秒速5センチメートル』が完結しました。これで『秒速5センチメートル』という作品は、アニメ版、小説版、漫画版と、三つの作品が並び立つことになったわけですが、それぞれ微妙に細部が違っていておもしろい。

 原作というか、オリジナルとなっているものはアニメ版なんだけれど、小説版も漫画版も非常にクオリティが高く、読ませるものに仕上がっています。

 特に小説版を初めて読んだときは驚きました。アニメを製作した新海誠監督が自ら小説版も手がけているのですが、これが異常によくできている。物語はアニメと同じなんだけれど、文章の質がやたらに高く、ふつうに現代恋愛小説の傑作といっていいと思う。未読の方にはつよくお勧めしておきます。

 『秒速5センチメートル』。それは初恋に囚われた男の物語です。主人公は13歳の頃に好きだった少女を大人になっても忘れることができず、どうしても前進することができない男。物語はかれの成長と喪失を、三つの時期にわけて描いていきます。

 アニメ版は主に13歳の時期の初恋に焦点があたっているように思えました。雪に囲まれた列車のなかで何時間もの時を過ごすエピソードはきわめて印象的ですし、新海誠監督独特のあの映像美で観るものを魅了します。

 そこでは、たった13歳で出逢ってしまった本物の運命的な恋が、しかし現実に敗れ、失われていくようすが、なんともいえないリリシズムを伴って描きこまれています。失われた恋は、叶わなかったからこそどこまでも純粋で美しく、切なく、観るものの心を締め付けます。

 一方、漫画版では、アニメでは軽く流されている第三部にあたる主人公が大人になってからの物語がクローズアップされ、詳細に描きこまれています。そのことによって、全体の印象はよりシリアスなものとなっているといっていいでしょう。

 初恋が叶うことなく、ただその思い出に呪いのように縛られて生きるしかないという描写は、ある種のリアリズムではあるのだと思います。その点を耐えがたいと感じるひとからは、時々「欝アニメ」といわれることもあるようだけれど、必ずしも絶望的な物語というわけではありません。

 過去を受け入れ、乗り越えて、それでもなお前へ進もうとする意思は感じます。『秒速』はこれでいい。問題は、それではこの喪失の切なさを乗り越えて何を描くか、ですよね。

 そういう意味で新海監督の最新作『星を追う子ども』には期待しています。むかし下北沢に単館上映の『ほしのこえ』を観に行ったときからのファンなので、このひとの新作を劇場で観れることはとにかくうれしい。だれにも真似のできない美しい映像はこの監督の最大の魅力。傑作を期待しています。