好きな漫画の名前を名刺に載せるとしたら。


 簡単な質問である。もし、あなたが好きな漫画を一作、名刺に載せるとしたら何を選ぶ? それはつまりあなた自身を象徴する作品であり、対外的にあなたの顔となる作品とである。名刺を渡されたひとはその名前を見てあなたという人間のことを知り、理解したと感じる。さて、どうする?

 もちろん、現実的には名刺に漫画の作品名を載せるなど非現実的だが(趣味の界隈に配るだけならいいかもしれないが)、この質問にどう答えるかで、けっこうそのひとの個性が出ると思う。

 単純にいちばん好きな作品の名前をあげるひともいるだろう。しかし、何かしら見栄を張るひともいるはずだ。こういうとき、スタイリッシュでインテリジェントな作品は名前をあげやすい。

 昨日、スカイプでこの件について話したのだが、たとえばよしながふみオノ・ナツメの作品あたりは「名刺に載せやすい」名前なのではないだろうか。最近だとヤマシタトモコなども「名刺に載せやすい」気がする。

not simple (IKKIコミックス)

not simple (IKKIコミックス)

執事の分際 (白泉社文庫)

執事の分際 (白泉社文庫)

ドントクライ、ガール (ゼロコミックス)

ドントクライ、ガール (ゼロコミックス)

 つまりまあ、端的にいって褒めやすい。好きだといっても恥ずかしくない気がする。彼女たちが描いている漫画は、なんというか、とても賢いのである。エロ漫画でいうと町田ひらくとかね。

 一方、好きだというのがちょっと躊躇われる漫画というものもやっぱりある。たとえば『アフタヌーン』でどの漫画がいちばん好きか、と訊かれたとき、『ヒストリエ』が好きだとか、『ヴィンランド・サガ』が好きだということはいいやすい。

 『おおきく振りかぶって』が好きだというのもまあまあありだ。『謎の彼女X』の名前をあげるのはちょっとむずかしいが、できなくはない。しかし、『ああっ女神さまっ』がいちばん好きだというのは、ちょっと、なんというか、ためらわれるものがある(笑)。

 『ヤングアニマル』でいうと『ベルセルク』とか『3月のライオン』あたりは鉄板で、好きだといっても全く恥ずかしくない。しかし、『ナナとカオル』なんかはけっこう恥ずかしい。『ふたりエッチ』はとても恥ずかしい(笑)。昔、『まじかるストロベリィ』という作品が連載されていたけれど、この名前をあげるのは非常に躊躇されるものがある。

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)

 そういう作品が悪いというのではないから念のため。あくまで、くだらない見栄の話である。ここらへんはまあ一部のオタクしか共有していない感覚かもしれないけれど、でもそういうことはあると思うのだ。

 何がいいたいかというと、名刺に載せても恥ずかしくないインテリジェントな漫画はたしかに素晴らしいが、一方でばかばかしくもおもしろい作品も重要だということ。ぼくはそう思うのです。

 「名刺に載せられる」作品とは、つまり褒めやすい作品、あるいはつまり語られやすい作品のことである。その作品を語ることで自分をより良く見せることができるような作品は語られやすい。

 もちろん、漫画でなく映画でも音楽でもいえることで、たとえば好きな映画は何ですか、と訊かれたとき、『パイレーツ・オブ・カリビアン』です、と答えるのは躊躇されるということはあるでしょう。ついつい好きでも何でもないフランス映画のタイトルをあげちゃったりするということはある。

 でもなあ。そういう作品の名前を並べることで何かを表現しようとすることはやっぱりくだらなくもあると思うんだよね。ただの見栄なんだもの。もしこんな質問を受けたら、素直にそのときいちばん好きな作品の名前をあげられる自分でありたいと思います。