やまむらはじめの突破。『神様ドォルズ』と『天にひびき』。

天にひびき 1巻 (ヤングキングコミックス)

天にひびき 1巻 (ヤングキングコミックス)

 やまむらはじめ『天にひびき』が面白いです。

 天才的な指揮者の才能を持つ少女と、彼女のまわりの音大生たちの日常を描いた物語。まあ、クラシック音楽ものであるわけですが、指揮者を中心に据えたあたりがなかなかに新しい。このあいだの『情熱大陸』を見たところ、現実に若い女性の指揮者もいるようで、全く非現実的な設定というわけでもありません。

 『のだめカンタービレ』や『ピアノの森』など、クラシック音楽の世界に光をあてたヒット作はいくつかありますが、それらに劣らない練度の作品となっています。作家やまむらはじめとしてもある種のブレイクスルーといえる作品なのではないかと思う。

 やまむらはじめの漫画は元々好きだったんだけれど、正直いえば何かもうひとつ垢抜けないというか、冴えないところがあって、いまひとつメジャーになりきれない作家という印象があった。

 かれの作品はこれまでほとんどがSFか伝奇ものだったんだけれど、その時点で既に時代とはかけ離れた感性という気がしてしまう。可愛い女の子は描けても、かるい萌えラブコメとかは描けないひとだと思うんですよね。

 やまむらはじめ作品で印象的なのは、主人公の目です。かれの漫画の主人公の少年は、いつも、思いつめたような暗い目をしている。そういう意味ではやまむらはじめは情念の作家であって、だからこそ、「軽さの時代」にあって、その作品はいかにも重々しく、時代遅れな印象を与えるところがあった。

 ぼくはその泥臭さが好きだったんだけれど、それでも、このままではこれ以上の人気は得られないだろうな、と思っていました。

 しかし、ここに来て、かれの作品は変わったと思います。やまむらはじめはたしかに何かを突破(ブレイクスルー)したように見える。たとえば『天にひびき』はけっこうシリアスなテーマを扱ってはいるんだけれど、そこには情念に負けない軽さと明るさがある。

 この作品と並行して『サンデーGX』で連載している『神様ドォルズ』にしても、やまむらはじめお得意の伝奇ものではあるし、横溝正史的な孤村が出てきたりはするものの、やはり基本となるトーンはポップでライトです。

神様ドォルズ 1 (サンデーGXコミックス)

神様ドォルズ 1 (サンデーGXコミックス)

 『蒼のサンクトゥス』あたりではまだ未完成だったものが次第に完成してきている印象である。やまむらはじめは自分の限界を超えたのだと思う。

 そうなってみると、もともと実力はある作家なので、その作品はめっぽうおもしろい。たしかに流行の絵柄ではないかもしれないが、その時点での流行の絵柄というものはすぐに古びてしまうものなので、それはむしろ長所でしょう。

 このまま成長していってほしいと願わずにはいられない作家なのでした。