デビュー30周年! 孤高の(?)天才漫画家竹本泉を語る。


 退屈だ! しかしおもしろいのかどうかもよくわからない新作に取り組む体力はない――という時はしばしばあるものです。そういうときは既に実力がはっきりわかっている作家の作品を読むのがいい。

 で、ぼくにとってそういう時に読むべき作家の代表格は竹本泉なのです。何しろ、神経に負担をかけない作風。うどんを啜るようにいくらでも読めてしまう。それでいてトリッキーなアイディアが満載だったりする上に、キャリアが長いため作品数も多い。いやあ、まさに疲れているとき読むのには理想的な作家さんですね。

 そういうわけで、いま、『てけてけマイハート』を読んでいます。竹本さんの作品のなかでは特に代表作というわけでもないでしょうが、巻数的には(一話完結の『よみきりもの』を除くと)いちばん多いのではないでしょうか。

てけてけマイハート 1 (バンブー・コミックス)

てけてけマイハート 1 (バンブー・コミックス)


 いやまあ、ページ数を取るなら『ねこめーわく』のほうが多いかもしれないけれど、とにかく竹本漫画のなかでも一、二を争う長編であることは間違いない。というのも、竹本さんという作家さんはとにかく長いシリーズを描かないひとなんですね。

 一部で有名な『あおいちゃんパニック!』ですら全三巻で終わっているわけで、『てけてけマイハート』はわりと記録的に長い話なのです。それではどんな波乱万丈の物語が語られているのかというと、まあ話らしい話はなく、ただひたすら日常ネタが続くだけだったりする。

 書くといかにもいまはやりの漫画のようですが、竹本さんはずっと昔からこういう作品を描きつづけてきているんですね。時代が竹本泉に追いついてきたというべきか。これも代表作である『ねこめーわく』なんか、ひたすら二足歩行する猫とたわむれているだけの話ですからね。それでもおもしろいんだから、すごいんだけれど。

 いやあ、しかし、そもそも竹本泉ってどれくらい知名度があるんでしょうね。漫画読みなら知らないひとはいないくらいの作家だとは思うんだけれど、でもメジャー誌には決して登場しないので、知らないひとは知らないかも。

 もし知らなひとがいたらとにかく読んでみてほしいですねえ。ぼくはこのひとは天才だと思う。色々な作品を描いているものの、とにかく発想がおかしい。ある意味、SF作家の王道を行っているといえなくもないと思うんだけれど、時々とんでもない話を描く。

 その意味で凄まじいのはやっぱり『アップルパラダイス』とか『うさぎパラダイス』あたり。『アップルパラダイス』の隕石が落ちてきて地球が滅亡しかける話はほんと凄かった。もちろん隕石はそれて地球は助かるんだけれど、その助かり方が凄い。頭おかしい。

 『うさぎパラダイス』の吸引力が強すぎる掃除機を作ってしまった結果、部屋が裏返ってしまう話とかもおもしろかった。SFだよねえ。とにかく、そういう変な話を大量生産している、追随するもののない孤高の漫画家なので、ぜひいちどは読んでみることをオススメします。

 最近の作品だと百合っぽい『さくらの境』あたりがオススメでしょうか。なんと今年でデビュー30周年!なのですが、まだまだ楽しい作品を描きつづけてほしいものです。はい。

さくらの境 1巻(MFコミックス)

さくらの境 1巻(MFコミックス)