記憶力の悲劇。


 その昔、ぼくは信じていた。たくさん本を読めば、博識になれるだろうと。しかし、そのときぼくは人間のもつ基本的な性質を無視していたのだった。つまり、忘却である。いくら本を読んでも読む端から忘れていっては博識にはなれないのだ!

 博覧強記とは、むずかしい本をたくさん読んでいるひとのことではなく、むずかしい本をたくさん読み、なおかつそれを理解し記憶しているひとのことなのである。いやあ、このことに気づいたときには心が折れましたね。いくら読んでも積み重ならないなら意味がないではないか……。

 いまではこの戦慄すべき事実を乗り越え、「ま、おもしろければいっか」という悟りの境地に達してはいるのだが、読んでも読んでも知識が蓄積されない事実はやはり哀しい。頭が悪く生まれた悲哀を噛みしめるのみである。

 オチなし。