- 作者: 高原英理
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読了。
タイトル通り「ゴシック」について語り倒した二冊。ゴシックとは元々「ゴート族風の」を意味する言葉で、つまり、ゲルマン民族のなかでも最も野蛮で残虐だったというゴート族のような、という意味らしい。
過去、ヨーロッパにおいて文学、建築、美術の各分野において数世紀にわたって発展しつづけたある種の様式を指す言葉なのだが、著者はこれを具体的な文藝作品や芸術作品にとどまらず、ある種の精神であり、様式である、と定義する。
その精神とは死、頽廃、人工、耽美、悖徳、暗黒、残虐であり、その様式とは血、薔薇、骸骨、十字架、天使と悪魔、義眼や義肢などである。それは徹頭徹尾、暗い涜聖の美学の世界であり、生命と自然を嘲笑するデカダンスの思想なのだ。
日本における火付け役はかの日夏耿之介だが、それ以前にも「和ゴス」ともいうべき世界はあったと著者は指摘する。それはたとえば鶴屋南北であり、山東京伝である。生真面目な文学者たちの眉を顰めさせるような、絢爛たる、しかし暗黒と残虐の文学、それがゴシックだ。
その衣鉢を現代に受け継ぐのは、『魍魎の匣』の京極夏彦であり、『綺譚集』の津原泰水であり、そうして赤江瀑、須永朝彦、久世光彦、皆川博子、山尾悠子、篠田真由美、松浦寿輝、倉阪鬼一郎、物集高音といった作家たちである。
暗い慄く魂を抱え、タナトスに魅いられたものたち――そういうものたちがゴシックに惹かれる。幼い頃、背伸びして江戸川乱歩の小説を読んで、ひそかにその嗜虐被虐趣味に胸踊らせていた少年少女が、長じて『聖少女』を、『黒魔術の手帖』を読むようになるのだ。
いつの時代、どこの国にも、生よりも死に、太陽よりも月に、日常よりも非日常に惹かれてやまぬ人外(にんがい)はいるもの。そういう意味ではゴシックとはきわめて普遍的な概念であり、哲学であるといえるだろう。著者は言葉を尽くしてそんなゴシックの思想を礼賛する。
で、まあ、ぼくも平穏と健康と常識を愛する小凡人である一方で、血と薔薇の世界に惹かれずにはいられないサタニストの部分がないわけではないので、著者の主張には頷かされる。
ぼくはとてもとても「彼岸」の住人にはなれない、あくまでも「此岸」を愛し、その凡庸を楽しむ人間だと思うのだが、それでもなお、やはり、世界の暗黒面たるゴシックをも愛さずにはいられない。日常からゴシック趣味を実践するような趣味はもうとうないにしても、である。
ゴス万歳!