『クリエイティヴ脚本術』で『グイン・サーガ』を分析する。


 この『クリエイティヴ脚本術』(原題は『神々の炎を盗む』だそうだ)で書かれている理論をぼくなりに消化して、たとえば『グイン・サーガ』の構造を分析してみる。多少疑似科学的なところが出てくるが、突っ込まずに読んでほしい。

 さて、『グイン・サーガ』の主人公はいうまでもなく豹頭のグインである。『クリエイティヴ脚本術』の理論によると、このグインが物語の「ヒーロー(発展期エゴ)」にあたる。

 ヒーローは物語を通して意識のレベルを上昇していく。このばあいの上昇とは、つまり「低次元の意識」から「高次元の意識」へ変化することをさす。

 では、低次元と高次元の意識とは何か。それはつまり脳の構造のことである。人間は動物から進化した存在であるから、当然、その脳も動物的部分(Rコンプレックス。身体的で本能的な蛇の脳)と人間的部分(大脳新皮質。思考や霊を司る脳)に分かれている。

 この動物的部分による意識が「低次元の意識」であり、人間的部分による意識が「高次元の意識」なのである。この両者(正確には身体、感情、心理、霊の四つ)が衝突しあい、意識が上昇したり下降したりすることがすなわち物語である、ということになる。

 グインという「ヒーロー」は基本的に物語を通して意識の螺旋を上昇していくのだが、そのあいだに八つのアーキタイプに分類されるキャラクターとかかわっていく。「霊」、「心理」、「感情」、「身体」、「アニマとアニムス」、「トリックスター」、「門番」である。

 この八つのキャラクター・アーキタイプの詳細な説明は面倒なのでよすが、たとえば「アニムス」のアーキタイプとは、「エゴ(このばあいはグイン)」が愛する女性のことで、シルヴィアやヴァルーサがこれにあたる。

 「トリックスター」のアーキタイプとは、物語を撹乱したり変化をもたらしたりするキャラクターのことだから、これはあきらかにマリウスだろう。

 「ヒーロー」であるグインがこうしたさまざまなキャラクター・アーキタイプと関わりあいながら意識の螺旋を登っていくのが『グイン・サーガ』の最も基本的な構造である、といえる。

 ところが、たとえばイシュトヴァーンに着目するとまたべつの構造が見えてくる。グインが意識の螺旋を登っていく「ヒーロー(発展期エゴ)」であるのに対して、イシュトヴァーンは意識の螺旋を下っていく「アンチヒーロー(ホールドファスト)」なのである。

 アンチーヒーローは「私たちがもって生まれた物質主義的、権力主義的、暴君的な一面、つまり欲しいものをすべて手にいれ、必要な物をすべて支配したいという意志を示している」ということだから、まさにイシュトヴァーンだ。

 さらにレムスに着目してみると、かれはまず最初にアンチヒーローとして活動し、次にヒーローとして再生するキャラクターとして構想されていたと思しい(結果的にはそれを成し遂げずに終わったが)。この三者が三国を率いて覇を競うという『グイン・サーガ』の構造は、やっぱりよくできていたのだ。

 まあ、これはごく簡単で乱雑な構造分析だが、こういうふうに分析してみると、なるほど、物語の深層構造が見えてくることはたしかである。たぶん、これだけ読んでも何をいっているのかわからないと思うけれど、そうなのだ。こういうことを意識してプロットを組み立ててみると、たしかに、おもしろいかもしれない。