- 作者: クラーク・アシュトン・スミス,大瀧啓裕
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/08/30
- メディア: 文庫
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いつのまにかクラーク・アシュトン・スミスの『ゾティーク』ものを集めた短篇集が出ていたらしい。いつのまにかって、まあ、一昨年には出ていたんだけれど。うむ、読まなければ。
クラーク・アシュトン・スミスはいまから半世紀以上まえに活躍した幻想作家で、耽美、頽廃、官能の作家と云われている。ムアコックやブラッドベリに影響を与えたとも聴くが、日本ではほぼ無名だろう。いまになってこの作家の新刊が読めるとは、東京創元社に感謝だな。
――というわけで、入手した。冒頭の一篇が死霊術師(ネクロマンサー)もので、屍体性愛(ネクロフィリア)が絡んだりする倒錯的なエロティシズムににやにや。このデカダンスこそぼくが読みたいものという気がする。
もともと詩人であるスミスの英語は辞書なしでは読めないと云われるほどのものだそうで、訳文もそれに従ってそれなりにややこしく重々しく幻想味たっぷりなものになっている。いやあ、ぼくは好きですよ。ファンタジーの文章はこうでなくちゃ!
上でスミスは日本では無名だろうと書いたのだが、ラヴクラフトサークルの一員としてクトゥルー神話ファンには有名かも。現在入手できる訳書としては本書のほかに『イルーニュの巨人』があるようだ。ぼくは古本でソノラマ文庫海外シリーズの本も持っているが、大して高い本ではないので自慢にはならない。
マイケル・ムアコックに影響を与えたというが、『エルリック』のあのもの憂い雰囲気は、たしかにスミスの残響なのかもしれない。栗本薫の『トワイライト・サーガ』、『七人の魔道師』、「悪魔大祭」などもたぶんスミスの影響を受けている。しかし、ムアコックにしろ、栗本にしろ、スミスよりはだいぶエンターテインメント寄りである。
Googleにお伺いを立てたところ、詩人の心をもち、現実より幻想を愛したスミスは、生前もあまり恵まれなかったようだ。こういう特殊な嗜好の作家の人生はどうしてもそうなるのだろう。一般世間に認められるような世界じゃないものなあ。哀しいね。
それにしてもいまなおこういう本が訳されるのは、根強いファンタジー/ホラーファンが、少数ではあってもいるからで、全くこの種の同好の士には敬意を表したいものだ。
我々はホラーと云い、ファンタジーと云うが、スミスが活躍した20世紀前半にはまだそこまではっきりした区分がなかったのではないだろうか。スミスや(ぼくは詳しくないが)ラヴクラフトが書いたのは、ホラーとかファンタジーという言葉で括りきれない「彼岸の文学」であるように思える。
世の中にはどうしようもなく「彼岸」に憧れてしまうひとがいるもので、そういう人は畢竟あまりまともな人生は送れないなのかもなあ、と思ったりする。他人事ではない。困ったものである。