メディアミックスの理想型がここにある! 『真月譚月姫』完結!

真月譚月姫 1 (電撃コミックス)

真月譚月姫 1 (電撃コミックス)

真月譚月姫 10 (電撃コミックス)

真月譚月姫 10 (電撃コミックス)

 それはひとつの伝説のかたち。

 『月姫』――いまを去ること十一年前、TYPE-MOONを名のる無名の同人サークルから発売され、瞬く間に話題を集め、十万本を超えるセールスを記録した異例のヒット作。このただ一作でシナリオを務める奈須きのこの名前は一躍轟き、のちの傑作『Fate/stay night』に繋がることになった。

 その個性は異形。その物語は破格。アマチュア作品としては異常ともいえる分量を誇る文章によって紡がれたその昏い伝奇世界は、いまなお、多くのひとを魅惑している。

 そして、いま。佐々木少年なる才能の手によって、伝説は再誕した。漫画のかたちを得て蘇りしその作品の名は『真月譚月姫』。おお――見よ、あの壮麗なる異形が、あの尋常ならざる破格が、何と見事に再現されていることか。

 主人公はありとあらゆる物体の〈死〉を視る少年、遠野志貴。特殊な魔具を用いその力を抑えるこの少年が、アルクェイド・ブリュンスタッドという少女に出逢うところから物語は始まる。

 血まみれのボーイ・ミーツ・ガール。志貴は出逢うやいなや、一瞬でアルクェイドを切り刻み、殺すのだ。その魔を狩る血が反応したのか、どうか。ともかく、そこでこの出逢いは悲惨な隘路に終わっていてもおかしくなかった。

 しかし、幸運というべきだろうか、アルクェイドは不死なる吸血姫の一族の姫であった。彼女はふたたびもとの姿に戻り、志貴のまえにあらわれる。そして志貴は、贖罪のため、力を失ったアルクェイドに代わり、彼女が狙い、彼女を狙う魔物たちと対決していくことになる。

 そしてまた、そのうち、志貴――〈直死の魔眼〉を持つ異才の少年と、アルクェイド――哀しい宿命を抱えた真白き吸血姫は、惹かれあい、愛しあうようになっていくのであった。真夜中の恋の物語が、ここに、始まる。

 それにしても、佐々木少年による漫画版『月姫』の、何という完成度だろう。ここには、ぼくたちが愛し、憧れ、夢中になって読みすすめた『月姫』のあのダークな伝奇世界がほぼ完全に再現されている。

 昔、ぼくはメディアミックスの良否は「わかっている度」が決める、と書いたことがあるが、佐々木少年は恐ろしいくらいよく『月姫』のことを「わかっている」。ため息ひとつもれない。圧巻の物語だ。

 あれほど多くのひとを巻き込み、巨大なムーヴメントを形づくった『月姫』の魅力はどこにあるのか。その問題をこの作家は正確に把握し、理解し、そしてその解答を紙上に再現してみせた。

 その意味で漫画『真月譚月姫』は、佐々木少年から奈須きのこへのひとつのリプライである。あなたの生み出した物語を、わたしはこのように理解しました、という彼方からの返答。その答えの正しさに、おそらくは奈須きのこも息を呑んだに違いない。

 しかし――もし、ただそれだけであったなら、原作の物語をよく理解し正しく漫画として再現する、それだけのことであったなら、ほかの作家でも成し遂げられたかもしれぬ。

 佐々木少年が理解したものは、単に『月姫』の物語、その展開、その人物、あるいはその雰囲気ですらなかった。かれがその手で掴んだもの、それは『月姫』の本質にほかならなかったのである。だからこそ、この漫画版『月姫』では、『月姫』本編に存在しないオリジナルエピソードが何の違和感もなく接続される。

 物語は、いったん、原作の結末を綺麗になぞることだろう。たそがれの教室、少年と少女は別れを告げることだろう。本来、永遠であるはずの別れ――しかし、作家はそのさきにさらなる物語を幻視する。

 ああ――ぼくは心のそこから感嘆する。そうだ、十年前からずっと、これをこそ、この光景をこそ見たかったのだ、と。血と暗黒と悲劇に彩られた残酷な物語の末の、ウルトラハッピートゥルーエンド。ここに漫画版『月姫』は原作を超克し、無二の傑作として君臨する。

 佐々木少年真月譚月姫』。紛れもなく今年のベストを争う名作である。いまなお『月姫』の青ざめた夜の物語をしらない方がいるようなら、万感を込めて推薦させていただく。ここに一作の素晴らしい物語がある、読まない手はない、と。

 直死の少年と純白の吸血姫の恋の物語――現代伝奇物語の頂点、『月姫』の、その完全なる再現、否、転生がこれだ。読み逃がすなかれ。ゆめゆめ、読み逃がすことなかれ。