『神のみぞ知るセカイ』に見る連載漫画のサバイバル戦略。


 今週号の『神のみぞ知るセカイ』が面白かった〜。今週に限れば、ジャンプサンデーマガジンチャンピオン四誌の連載漫画のなかでいちばん面白かったと思う。アニメ化記念の巻頭カラーできっちりこういう回を持ってくる辺り、プロの仕事といえるだろう。

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 で、具体的にどこら辺が面白いかを書くまえに、連載漫画の短期戦略と長期戦略という話をしたい。この場合でいう戦略とは、週刊漫画雑誌という過酷な競争の現場で、連載漫画がどのようにして生きのこっていくかの方策という意味である。

 そんなことを何も考えずに本能の促すままに描く作家もいないわけではないだろうが、大抵の作家はそうではないに違いない。どのようにして読者を惹きつけ、読ませ、また単行本を買わせるか、考えに考えたうえで連載を始めているだろう。何しろ、新連載とは作家にとっても大きな賭けなのだ。何の戦略もなしに挑戦するのは無謀というものである。

 まず、漫画連載戦略の基本となる事実は、特に週刊誌では、人気のない漫画はすぐに打ち切られてしまうということである。この漫画は20巻辺りから面白くなってくるんですよ、などといっても意味はない。とにかくまず何よりも読んでもらえなければ話にならないのだ。

 そこで短期戦略が重要になってくる。いかに短いあいだに読者を惹きつけるか。冒頭一ページ目から面白い。理想の連載漫画はそうあるべきだろう。そしてそのあと、間断なく面白いことがベスト。つまり、「山あり谷あり」ではダメなのだ。「山あり山あり」。こうでなくては連載漫画は続かない。

 しかし、そういう「毎週クライマックス」の漫画は必然的に話の起伏に欠けることになる。やっぱり物語とは「山あり谷あり」で読ませるものなのであって、毎週ひたすら盛り上がっている漫画には大きな制約が伴うのである。

 もちろん、そういう作品もあって良いだろう。しかし、すべてがそれでは困ると思う。そこで問題になってくるのが長期戦略だ。つまり、連載が長く続いた場合を想定して、長期的に面白さを生み出すことを考える方策である。

 打ち切られては話にならないが、ただ打ち切られないための方策を打つだけでは飽きられる。連載漫画はそういう過酷なサバイバルの現場である。

 サンデーでいうと、『マギ』などはあきらかに長期戦略を練っている気配がした。ぼくが『マギ』の初期の巻にわくわくしたのは、それそのものが格別に面白かったからというよりは、ここから何か壮大な物語が始まっていくのではないか、と思えたからだ。

 また、『絶対可憐チルドレン』なども良く練られた長期戦略を感じさせる。『ハヤテのごとく!』にもそれはあるだろうし、このあいだ完結した『MAJOR』などは、主人公が小学生の時点で、かれが最終的にメジャーリーグへ行くことになるという戦略をタイトルから匂わせていた。

 いまの『ONE PIECE』を例に取るまでもなく、長期戦略がきちんと練られた連載漫画は面白い。長編なのだからあたりまえのことである。複数の伏線が収斂し、ひとつの怒涛の展開を生み出すカタルシス――それこそは長編漫画を読む醍醐味そのものだろう。

 ただ、くりかえすが、いま面白くなければいくら雄大な長期構想を練っていても意味がない。壮大な展開を予感させながらあっというまに打ち切られた漫画、あなたもひとつふたつは心当たりがありますよね? つまりまあ、「いま」と「将来」、短期戦略と長期戦略、その兼ね合いのなかで連載漫画は描かれていくといっていいだろう。

 そのうえでいうなら、短期的な人気を確保せざるをえない状況のために長期戦略を練り込みづらいということは週刊漫画雑誌の弱点のひとつだと思う。

 さらにいうなら、人気上位の作品が悠々と長期戦略を練っていけるのに対し、人気下位の作品はとりあえず短期的な人気を確保しなければならないため、なかなか下位の作品が上位に迫ることはむずかしいという事情もありそうだ。

 そこで『神のみぞ知るセカイ』である。この作品の作者は、『聖結晶アルバトロス』という作品でいちど連載を打ち切られている。この作品も重厚な長期戦略の存在を匂わせてはいたのだが、結局はそれはほとんど無駄に終わった。短期戦略が巧く行かなかったのだ。

 『神知る』はその反省を十分に活かしているように見える。第一話の時点から面白いし、その後も短いスパンで話を展開させて飽きさせない。実に見事な短期戦略というしかない。

 そのうえで長期戦略の存在を匂わせはするのだが、決して一気に設定が開陳されることはなく、少しずつ少しずつ読者の反応を確かめながら展開していく。そしてアニメが放送開始し、人気が確固たるものになったと思われるいま、物語は急展開を見せ、長期戦略的な面白さが爆発している。

 素晴らしい。連載漫画で人気を得る戦略を、実によくわかっているというしかない。この先話がどう展開していくのかわからないけれど、いまよりさらに面白くなるのではないか、と期待させるものがある。一ファンとして先がとても楽しみな作品なのでした。