可愛い女の子の不器用な料理――『高杉さんちのおべんとう』。

高杉さん家のおべんとう 1

高杉さん家のおべんとう 1

 柳原望! なつかしい名前だなあ。その昔、白泉社から『一清&千沙姫シリーズ』という時代もののシリーズを発表していた作家さんですが、まだ描いていたんですねえ。『一清&千沙姫シリーズ』は、いろいろな意味でご都合主義に満ちた楽しい作品で、記憶にのこっていました。

 で、さまざまなところで話題になっているみたいだから、読んでみる――――――読み終わった。まだ描いていたのか、とは失礼しました。これは十分現代に通用する一級の作品です。あえていうなら擬似家族テーマということになるでしょうが、ほんのりラブが混じった逸品であります。

 物語は博士号をとったものの無職のまま大学の研究室で暮らす主人公その一のところに、主人公その二こと家族を失った12歳の少女久留里ちゃんが転がり込んでくるところからスタート。

 研究にかんしては熱心ながらしょせん粗忽な三十男に過ぎない主人公その一に思春期の女の子の扱い方なんてわかるはずもなく、戦々恐々としながら扱うことになります。そこで、ふたりのあいだを掛け持つのが料理。特にお弁当。

 久留里はじぶんをひきとってくれたことに対するお礼のつもりなのか、それとも単なる趣味なのか、料理を作りはじめるのです。もともとこの久留里ちゃん、ほとんどしゃべらない無口キャラでも気立ては良い女の子、ふたりの仲は、お弁当の進歩に合わせるように、少しずつ縮まっていきます。

 一方、久留里の通う中学校ではいじめ問題なども勃発し、シリアスな展開を挟みながらも、まったりと物語は進んでいきます。はたして久留里ちゃんのほのかな恋がかなう日は来るのでしょうか――? って、来たらまずいな。歳の差30歳弱だぜい。

 読後の印象は、まあなんというかふしぎな漫画だな、と。家族の死というトラウマものの過去を抱えた久留里ちゃんですが、その過去はべつだんフォーカスされるわけではなく、ただ淡々と物語は進んでいきます。

 学校でのいじめ問題などにしても、「あってあたりまえ」というような描写で、告発の意図を感じさせません。とにかくきわめてシビアな現実が描きこまれているにもかかわらず、全体を包み込むのはやけにほんわりした空気、というある種アンバランスな作品ですね。

 しかしまあ、これはおもしろい。はやりの萌え漫画かというとそうではなく、かといって純粋な少女漫画とはもちろんいえず、オタクの甘い夢ではないにもかかわらずどこか少女性愛嗜好を感じさせるところもやはりあり――というおもしろい漫画。かなりおすすめです。