『BREAK/THROUGH』各章冒頭。


 冬のコミックマーケットで発売予定の同人誌『BREAK/THROUGH vol.1』原稿は順調に進行しています。現在、全体の半分くらいは書き終わりました。

 原稿執筆のあいだ「Something Orange」を停止しつづけるのも申し訳ないので、宣伝の代わりに原稿の各章冒頭だけを公開してみます。ちなみに、ここには公開しませんが、序章と終章も書き終わっています。

目次

序章「あなたならエヴァンゲリオンに乗りますか?」
第一章「殺戮者ナウシカ
第二章「〈日本沈没〉か〈東のエデン〉か」
第三章「蛇と王冠――〈十二国記〉から〈コードギアス〉まで」
第四章「海野藻屑の純愛、涼宮ハルヒの絶望」
第五章「欺瞞の帝国――〈グイン・サーガ〉小論」
第六章「〈SLAM DUNK〉は遠く」
第七章「それでもぼくたちはらくえんをめざす」
第八章「花の勲章――『SWAN SONG』を解読する」
終章「たとあなたがエヴァに乗らなくても」

 第一章「殺戮者ナウシカ

 ……ねえ先生 それがこの世の真実ですか? 本当は 懸命に生きようとする努力も 人を愛したり愛されたりする悦びも悲しみも すべては作りもののまぼろし どうしようもなく無力で無意味なものでしかないのではないですか?

田中ユタカ『愛人』

 遥か古、一千年の昔、〈火の七日間〉と呼ばれる最後にして最大の大戦とともに人類の夏は終わりを迎えた。長い長い秋の時代を過ぎ、遂に亡びの冬が訪れようとしている頃、その少女は風の谷と呼ばれる峡谷に生を受けた。ナウシカ。やがて〈墓所〉なる旧時代の夢と対決し、旧人類の希望を焼き尽くすことになる娘である。

 第二章「〈日本沈没〉か〈東のエデン〉か」

 あるいは心理学者なら〈タナトスの欲望〉と呼ぶのかもしれぬ。この世界の暗い半面――死と破滅とに否応なく惹かれ、魅了される、その心理である。テレビで取り沙汰される犯罪者はしらず、善良な市民には縁がないはずの妖しい衝動ではある。しかし、平凡で平穏な日常を送っているわたしたちの心にも、その暗い〈タナトスの翳り〉はひそんでいて、時にわたしたちをダークサイドへひきずりこもうとするのだ。春のようにうららかな人生を謳歌していてなお、どうかするとひとは冬に惹かれる。だからこそ、このような物語が書かれたのかもしれぬ。日本列島がのこさず海底に沈んでしまうなどという悪夢のような物語が。小松左京日本沈没』を読むとき、わたしの胸に湧き上がるのは、そのような感慨だ。

 第三章「蛇と王冠」

 冠の話をしよう。ただひとつの冠の話を。それは黄金で出来ており、偉大な魔力を帯びている。否、どこぞの老いぼれた魔術師の作ではない。そのような下らぬ手妻ではない。その冠に魔法を与えているのは、ただ人々の期待と忠誠のみ。それは王冠と呼ばれる冠なのだ。それを被るものは王と名指され、一国を統べることとなる。それでは、いまからわたしの知る幾人かの王について語ろう。それは、限りなき信頼と重責を背負った帝王たちの物語、そしてかれを信じ、かれに仕えた者たちの物語である。これまでの二章では、ある特定の作家や作品を中心にその他の作品を語ってきたが、この章では複数の作品と人物とを通して、王とは何か、いかなる人物が王冠にふさわしいのか、その疑問を問い詰めていくこととしたい。どのような国であれ、一国に王はただ一人、至尊の玉座に坐すものは特別の人物でなければならぬ。故に王と王の物語を語ることは、特別な人間とは何か、それを語ることでもあろう。

 第四章「欺瞞の帝国――〈グイン・サーガ〉小論」

 さあ、語ろう、世にも陰鬱な話を。これはさる中原の大国の王位戴冠を巡る物語、誰にも愛されなかった少女と、万能でありながら無能極まりない彼女の夫君の物語に他ならぬ。少女の名はケイロニア帝国皇女シルヴィア、ヤーンなる神の定めし縁に従い、彼女の夫となった男は豹頭のグイン。世に二人となきこの英雄は、しかし、この話においては道化の役を宿命づけられている。さあ、さあ、それでは、語ろうではないか、血と炎の、孤独と宿縁の、愚かしき憐憫と果てしない愛情飢餓の物語を。そこには、暗黒の版図を支配するドール神の署名が黒々と記されているに違いない。

 第五章「海野藻屑の純愛、涼宮ハルヒの絶望」

 鬼才である。1996年に山田桜丸名義で登場、しかしその後数年間は鳴かず飛ばずの時期が続く。この時代にも『ロンリネス・ガーディアン』、『ルナティック・ドリーマー』、『竹田くんの恋人』といった作品を発表しているものの、よほどの愛読者以外は実物をしらないだろう。この時代はあまり目立たぬ、ごくありふれた作家であった。しかし、2003年に〈GOSICK〉で一定の人気を獲得したその翌年、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を上梓、各界の注目を集める。べつだん、この作品が破格のベストセラーとなったわけではない。だが、その内容はたしかに注目に値するものであった。未だにこの作品をこの作家の最高傑作に挙げるひとも少なくないであろう。詳細は以下に譲るが、少なくともその頃のライトノベル業界にあっては、ただ異色というだけでは足りぬほどの異色作であった。

 第六章「〈SLAM DUNK〉は遠く」

 名作といい、傑作という。それは月に何百という漫画が読み捨てられてゆくなか、他を圧倒する風格を備えた作品にのみ与えられる桂冠である。しかし、その名作傑作ですら大半は時の審判に耐えない。一世を風靡した人気作品も、数年を過ぎれば読むものはいなくなり、好事家の本棚にひっそり睡ることになるのである。消費社会の現実。とはいえ、ごく少数の並外れた作品だけは異なる運命を辿る。何十年の年月を過ぎてなお、そのジャンルの代表作として読まれつづけ、愛されつづけ、いわば不死の生命を得るのだ。それは漫画作品にとって最大の栄誉であり、そうなった作品を古典と呼ぶ。井上雄彦SLAM DUNK〉は、スポーツ漫画の古典となったといって差し支えないだろう。天才を自称する不良少年がスポーツマンとして成長してゆくさまを力強く描いたこの傑作は、おそらく現代日本で最大の人気を誇るスポーツ漫画である。

 第七章「それでもぼくたちはらくえんをめざす」

 ある日突然、運命と出逢う。退屈な暮らしに落ちたメテオライト。もういままでのじぶんじゃいられない。音立てて世界が変わってゆく。ジェットコースターの終点はどこ? それすらわからずひたすら走る。いつか見えて来る地平線。見たこともないすごい景色。でも案内役の彼女は告げる、こんなのまだまだ序の口だって。いつまで走ればいいの? どこへ着けばいいの? 答えはない。あるはずがない。だれもそんなことしりやしない。そのうち過去は遠ざかって、思い出すことも減ってゆく。でも、忘れられないことがひとつだけ。あれはたしか去年のコミフェ、誰も近づかないぼくのスペース、あのちびは真顔で訊いてきたっけ。「堕落する準備はOK?」

 第八章「花の勲章――『SWAN SONG』を解読する」

 それは苛烈な宿命と高貴な抵抗の物語、暗黒の現実を前になお膝を折ることを拒み、血が雪を紅く染め上げる戦場でなお気高く生き抜いた若者たちの賛歌――『SWAN SONG』。その物語は、聖なる降誕祭(クリスマス)を翌日に控えたある冬の夜に始まる。その夜、あたたかい布団のなかで安眠を貪っていた人々は、一転、悪夢に突き落とされる。未曾有の大地震が街を襲ったのだ。アスファルトは裂け、都市は崩れ、人々は、あるいは瓦礫の下敷きとなり、あるいは火災に巻き込まれて、次々と命を落としていった。その地獄のなか奇跡的に一命を拾った大学生尼子司は、廃墟を彷徨するうち、辛うじて倒壊を免れた教会へ行き着き、そこで同じように雪のなかを逃げのびてきた若者たちと出逢う。田能村慎、佐々木柚香、川瀬雲雀、鍬形拓馬、そして八坂あろえ。司を含む六人は、崩れ去った都市で生き抜くため、懸命な努力を開始する。その先に待ち受ける残酷な運命をしることもなく。

 あたりまえですが、これだけじゃよくわかりませんね。そうとう堅苦しく筆圧の強い文章になっていることだけはおわかりになるかと思いますが――まあ、ぼくの文章は堅くないとおもしろくないんですよね。軽快で密度の濃い文章なんて書けません。

 一生懸命書いてはいるのですが、さて、一般の目におもしろいものとなっているかどうか……。同人誌は刷りすぎて売れなかったらすべてじぶんの責任となるわけで、怖い! 怖いわ! はしさんとかくらふとさんとか夏コミで完売していたみたいだけどね。――頑張ろ。