21世紀のジャンヌ・ダルク。

水の森(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

水の森(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

 遠い遠い昔の物語。あるとき、天上の神(?)は気まぐれにあるひとりの少女を選び、その全能を分け与えた。少女の名前はジャンヌ・ダルク。彼女はその力を祖国の平和のために用い、戦い、戦い、戦い抜いて血まみれとなり、遂に百年の戦争を終結に導いた。

 人類の歴史上ただひとり、神に選ばれながらその力を私利私欲のために利用しなかった少女。しかし、やがて人類はジャンヌを裏切る。その欲望のために彼女を利用し、その覇道のために彼女を磔刑に処したのだ。

 むろん、神に守られたジャンヌのことは何者も傷つけることはできない。いや――そのはずだった。しかし、人類に絶望したジャンヌは死を受け入れ、神のみもとに上ることを求める。血泥に塗れた聖女の絶望を、神ですら癒すことはできなかった。

 そして、神は愛するジャンヌを人類の歴史のなかで最も平和に近い国、21世紀日本へと飛ばす。こうして、21世紀のジャンヌ・ダルクの物語が始まる。本書『水の森』はそんな荒唐無稽な展開から開幕する。

 異世界とも紛う未来社会に召喚されたジャンヌを待つものは脅威の怪物か? 新たな聖戦か? 否、それは平凡な今日を生き、懸命に明日を探し求める人びとであった。輝く美貌と神の恩寵をあわせ持つジャンヌの周りに、様々な人びとが集まってくる。

 地上に舞い降りた天使――しかし、かの百年戦争において死と絶望を見過ぎたその心は、数百年の時を飛び越えてなお、暗やみに閉ざされていた。はたしてジャンヌの心が救済を知る日は来るのだろうか? 物語は、ジャンヌを狂言回しに、毎回主人公を変えて語られる。

 なかなかおもしろい作品だと思うので、推薦しておきます。それほどスペシャルな才能を感じさせるというわけではないけれど、心温まる佳作とはいえるでしょう。