『3月のライオン』のさりげない優しさ。


 『3月のライオン』を読み返している。この漫画、『ハチミツとクローバー』で大成功した羽海野チカの新たなるチャレンジであるわけだが、いまのところ、傑作への階段を順調に登っていると思う。

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)

 『ハチクロ』より長くなりそうなので、完結するまでまだしばらくかかるだろうけれど、作品の完成度にかんしては心配していない。きっと素晴らしいジ・エンドを迎える。そんな気がする。

 ま、この作品の内容に関しては様々な視点から様々な意見が寄せられているので、あまり書くことはない。未読の方はぜひ読んでほしいとしか。で、わりとどうでもいい観点からひと言述べてみると、この漫画、太っていることを「フクフク」っていうだよね。決して「デブ」とかいわないのだ。そこがすごくいい。

 この表現を見て思い出すのが石田衣良の小説である。かれの作品では、頭の回転が遅いことを「バカ」とはいわない。「スロー」と表現する。たとえば知的障害者の女性とプレイボーイの男性の恋を綴った短編のタイトルは「スローガール」である。

1ポンドの悲しみ (集英社文庫)

1ポンドの悲しみ (集英社文庫)

 決して「バカ」なんかじゃない、ただちょっと「スロー」なだけ。そんな優しい心遣いが感じ取れる言葉遣いだ。

 ちょっとしたことだし、それほど重要なことではないかもしれない。しかし、この言葉遣いに対する繊細さ、何ともいえない優しさが、ぼくはとても好きだ。

 これは趣味の問題だが、やっぱり汚い言葉を平気で使う作家は好きになれないのである。もちろん、そういう言葉が効果を上げることがあることもわかっているけれど。

 羽海野や石田の上品で優しい言葉遣いには心癒される。うん、やっぱり『3月のライオン』は傑作になると思うのだ。