『クリムト』。

 十九世紀末から二〇世紀初頭を荘厳な芸術作品で飾った芸術家、クリムト。そのクリムトの伝記映画、のように見せかけた幻想映画である。

 物語は、病床に伏すクリムトのもとを若きエゴン・シーレが訪れるところから始まる。しかし、クリムトは既に意識がなく、ただ眠るばかり。そして、物語はクリムトのスキャンダルにまみれた波乱の人生を追いかけていく。

 追いかけていくのだが、この病院そのものが異常な空間で、この時点で既にリアリズムは放棄されている。そして物語が進んでいくにつれて、次第に幻想と現実は混交しはじめ、何が事実で何が空想なのかはわからなくなっていく。

 否、初めからすべては梅毒に犯されたクリムトが見た末期の夢に過ぎなかったのかもしれない――まあ、そういう映画です。

 完全に観客を拒絶しているというわけではないけれど、あらかじめクリムトに対して最低限の知識をもっていないと何が何だかわからない映画ではあると思う。クリムトってだれ? シーレって何者? とか、そういうひとは見てはいけないのである。まあ、放っておいても見ないだろうけれど。

 また、クリムトの人生を忠実に映像化した伝記映画を期待する向きも見てはいけない。あくまでこれはクリムトを題材にして生と死、本物と偽物というテーマを追求した幻想芸術映画と見ることが正しいだろう。

 いくぶん難解というか、わけがわからないところはあるのだが、じっさいにクリムトがデザインしたものを再現したという衣装は豪華絢爛、美術もなかなかにすばらしく、おまけにヴィトゲンシュタインがちょい役で出てくるなどのサービスもあり、個人的にはなかなかに悪くない出来の作品であった。

 Amazonでは「わけわからない」といっているひともいて、その気持ちもわからないではないんだけどね。ちなみに、ヌードの女性たちがたくさん出てくるので十五禁です。

 ひとによっては退屈と感じる作品だろうけれど、個人的には、ハリウッドのB級アクション映画を見ているよりはずっと楽しめる。その手の映画って、あとには何ものこらないからなあ。