連城三紀彦が天才すぎる件。

綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(2)

綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(2)

 現代を代表する推理作家綾辻行人有栖川有栖が、毎回何かしらの短編推理小説を取り上げ論評する『メフィスト』の名物企画「ミステリ・ジョッキー」をまとめた一冊。

 読み手としても一流の「目」をもつふたりが、該博な知識をもとにレアな短編を取り上げてはああでもないこうでもないと語り合う非常に楽しい本である。

 今回は収録作のうち有栖川有栖「黒鳥亭殺人事件」、綾辻行人「意外な犯人」、ディーノ・ブッツァーティ「なにかが起こった」、小松左京「新都市建設」が既読で、そういう意味ではお得度は低かったが、でも好きな短編が取り上げられているのはうれしいものだ。

 「なにかが起こった」は最高だよねえ。ぼく、いわゆるリドル・ストーリーではこれがいちばん好きかも。

 しかし、今回の白眉は何といっても連城三紀彦「親愛なるエスくんへ」。前巻では井上雅彦の「残された文字」が素晴らしかったけれど、それに匹敵するか、上回る衝撃を受けた。

 トリックそのものはシンプルなのだが、それを糊塗するだましの技巧が凄まじい。サプライズ・トリックの名手綾辻行人をして、「とてもこうは書けない」と慨嘆せしめる、天才作家の超絶技巧!

 天才という言葉をかるがるしく使うことはよくないとは思う。しかし、これはやっぱり並の才能じゃ書けないはずだ。

 作品テーマそのものの猟奇性、背徳性、反倫理性もなかなかに凄まじいものがあるが、しかし酸鼻を極めているはずのその世界は芸術的なまでに華麗なテクニックによって覆い隠され、ほとんどグロテスクさを感じさせない。

 読者を偽りの真相に導く手並みの、この尋常でないあざやかさはどうだろう。何より、じっさいに起こった戦慄の猟奇事件をもあっさりと呑み込み、物語に奉仕させるその貪欲。

 小説としての完成度を至上に置き、倫理も、常識も、はるかに下位に見る悪魔的麗質のもち主にしかこんな作品は書けないだろう。不世出の天才奇術師、圧巻のマジックでした。