や、そういうタイプの作品ってあるんだよね。実際にはかなり普遍性があるんだけど、「これは俺(たち)にしかわからない」みたいに思わせてしまうタイプの作品。これはアイマスMADに限った話じゃなく、マイナーメジャーな感じのジャンルだと非常によく見られるタイプの錯誤じゃないかと思う……まあ程度問題ではあるので、「錯誤」ってのもちと言いすぎかもしれないけど。
敷居さん(id:sikii_j)が自宅で、一見マニアックに見える動画でも意外と普遍性があるものだ、と再確認したという話。
本人が書いている通り、べつだんニコマスに限らない話だろう。ぼく自身、「濃すぎて一般受けしないだろう」と思い込んでいた作品が大ヒットを遂げてびっくり、という経験は何度かある。
具体的な例を挙げると、『ハルヒ』とか。あんな凝りに凝った作品があれほどのヒットするとは全然想像していなかったんだよね。しかし、現実には、ご存知の通り、である。
ある作品が「濃い」ということは、その作品にいたるまでの過去の作品の歴史、「文脈」を精密に参照しているということだ。
そういう作品は、当然、その「文脈」を知らないひとにとってはハードルが高いものになる――ように、見える。しかし、案外そうではないと敷居さんはいう。
これはさっきの記事につけた僕のコメントですけど、ここでいう「文脈」ってのはアイドルマスターのゲーム本編のストーリィだったり、過去に大量に積み重なったアイマスPV動画だったり、その中でつちかわれた春香さんのイメージだったりするわけですが……それをわかっていないと動画の凄みが伝わらないかといえば、伝わっちゃうわけです。
例えばまこTPの『H@NABI SKY』は、ほぼ全編ねんぷちの静止画のみで作られた動画であること、アケマス→箱→SPの順番にキャラが増えていき最後に「初めて」の雪歩に戻ってくる構成になっていること、「アイドルマスターが思い出を作るゲームなら、動画を作ることは思い出を伝えることだ。」という投稿者コメと一緒に当時のアケマスのプレイレポへのリンクが貼られていること……これら全てが感動ポイントなわけですが、その情報を全て知らない状態で見たとしてもやっぱり凄い動画なんですよ。
事実、僕はうちで動画を上映したときに前述の情報全く知らない人が「おおっこれは!」と身を乗り出す反応を何回も見ています。『サンデイ』や『H@NABI SKY』に限らず色んな動画でね。僕はそういう生の反応を見るたびに、自分が頭の中で思い描いている「普遍性」という名の幻想は、なんと狭いことだろう……ってのを思い知らされるのです。「わかってればさらに楽しめる」と「楽しめない」は、ぜんぜん違う。
そうなんだよね。
たしかにあるジャンルにおける最も「濃い」作品はそのジャンルの「文脈」に深く依存している。しかし、それでもなお、本物の傑作は、その「文脈」を飛び越えて伝わるものなのだ。クイーンを読んでいなくても麻耶雄嵩を楽しめるように。
しかし、とぼくは思う。それでは、どうして、そのひとはその作品に感動できたのだろうか? いうまでもない、それは、「じっさいにじぶんの目で見たから」である。
ようするに、敷居亭に行かなければ、その『サンデイ』なり『H@NABI SKY』なりに出逢えずに終わったかもしれないわけだ。
いかにももったいない話。しかし、世の中にはこういうことがままある。出逢いさえすれば人生を変えるかもしれない作品と、出逢わずに終わる人の何と多いことか!
もちろん、あるていどは仕方がないことだ。小説、漫画、映画、動画、音楽、舞台――世の中に、創作作品は星の数ほどもある。運悪く「運命の作品」と出逢うことなく終わってしまう可能性は高いだろう。
しかし、当然、出逢える確率は高い方がいい。そのためにはじぶんの好きなジャンル以外にも進んで手を出すことが必要だ。どこに意外な出逢いが待ち受けているかわからないではないか?
ジャンルを飛び越えよう! それまで無関係だと思っていたものにも興味を持とう! そこには、あなたの人生を変える作品が待ち受けているかもしれないのだ。
といっても、ひとはやはり、身近なところで満足しがちなものである。こういう、過剰なまでに作品数が多い時代ではなおさら。だから、問題は「どうやって届けるか」なんじゃないかと思うのだ。
いま、ずれたところにある人と作品をどうやって出逢わせるか――実は、ここらへんのことがぼくの大きな課題である。
たとえば、あるテレビアニメ好きの少年がいるとする。どうやって、この少年に、ロシアの人形アニメを見てもらうか。また、ファンタジー小説好きの女性がいるとしよう。どうやって、この女性に、『Landreaall』を読んでもらうか。そういうことなのだ。
一見無関係に見え、本人も無関係だと信じ込んでいる人と作品を結び付けたい!
実はぼくが作った「レビューをつなげよう!」というWikiはそういう意図で作ったものである。
このWikiでは、すべてのレビューは九九のカテゴリに分けられており、読者はそのカテゴリから作品を探すことができる。
そして、それぞれのカテゴリは「とにかく泣ける」、「謎が謎を呼ぶ展開」、「さわやかな読後感」といった抽象的なものであり、読者は必然的に従来のジャンルを、「文脈」を飛び越えて作品を探すことになる。
そこで何かあたらしい発見があるかもしれない、あるだろう、というのがぼくの目算であった。
いまのところ参加者が少なく休眠状態なので、いずれてこ入れする必要があると思っているのだが、もし興味がある方がいらしたら、あたらしいレビューを書き込んでいってほしい。現在、だれでも登録なしで簡単にレビューを書き込める。
さて――どうしたら「それ」に興味のないひとにふりむいてもらうことができるか? たとえば漫画に興味のないひとに『残酷な神が支配する』を、邦画に興味のないひとに『赤ひげ』を、あるいはMADに興味のないひとに『サンデイ』を楽しんでもらうことができるのか?
出逢いさえすれば、そのひとの人生最高の作品になるかもしれないのに、出逢わずに終わるとすれば、あまりにもったいない話。
あなたにとっての「運命の作品」は、案外、あなたがいま興味がないところに眠っているかもしれない。運命の恋人との出逢いが、ふだん通らない小道で待っているかもしれないように。
だから――たまには、いつもと違う道を通ってみませんか? そこには見知らぬ美女が(イケメンが)、笑顔で待っているに違いないのだ。