きみには炎があるか?


 これも『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』に書かれていた話。

 あるとき、ヴァイオリニストの卵がある高名なヴァイオリニストにじぶんの演奏を聴いてほしいと頼んだ。そしてひとしきり演奏すると、その高名なヴァイオリニストはいった。「君の演奏には炎がない」。

 そこで、若きヴァイオリニストは演奏を辞め、会社員になった。そして数年。偶然、その元ヴァイオリニストは老ヴァイオリニストにふたたび逢い、訊いた。「先生、ぼくの演奏に炎がないとはどういう意味だったんですか?」。

 老ヴァイオリニストは答えた。「ああ、きみの演奏なんてろくに聴いていなかったんだよ。わたしは演奏を聴いてくれ、というものには皆、炎がないと答えることにしている」。

 元ヴァイオリニストは憤慨していった。「そんなひどい! それじゃ、わたしの演奏には炎があったかもしれないじゃないですか! 先生のひと言でわたしの人生は変わってしまったんですよ!」。

 ところが、老ヴァイオリニストが答えて曰く、「わかっていないね。もし、きみの演奏に炎があったら、きみはわたしが何といおうと演奏をやめなかっただろうよ」。

 つまり、そういうことなのだ。ひとの意見に左右される程度の情熱ならそれまで、確固たる信念をもって道を進むものの業にこそ、炎は宿る。

 がんばろっと。