初めてのキスは、抗がん剤の味がした。『私の中のあなた』。


 連休最後の日を利用して、映画『私の中のあなた』を観てきた。

 結論から話すと、秀作だと思う。いや、もう、とにかく愛にあふれた映画で、劇場で涙をこらえることが大変なくらい。まだ観ていないひとで、「泣ける映画」を探しているひとには確信をもってお奨めできる作品だと思う。ただ――いや、それはあとで話そう。

 物語は、11歳の少女アナが両親をあいてに裁判を起こすところから始まる。アナは、白血病の姉ケイトを救うため、遺伝子操作によって生み出された「デザイナー・チャイルド」。いままで姉に臍帯血を初め、さまざまなものを提供してきた。

 しかし、腎臓の提供を求められたとき、アナはついにこれを拒否し、自分のからだを守る権利を求めて、両親あいてにたたかうことにしたのだ。味方に付けたのは勝訴率92%の凄腕弁護士。はたしてアナに勝ち目はあるのか?

 と、物語冒頭ではある種の法廷サスペンスものになるのかと思わせる。しかし、それは見せかけで、そこから映画は難病のケイトを中心とした家族の物語を追いかけていく。

 ケイトを生かしつづけるため、この家族は、あらゆるものを犠牲にしてきた。特に母親のサラは、人生のすべてを懸けて、病気とたたかってきたといってもいい。そのためにケイト以外の子供たちは二の次にされてきた。

 しかし、それでもかれらは姉を愛し、その命を救おうと、懸命な努力を続けているのである。たがいに愛しあい、思いあい、病気とたたかう家族。それでは、なぜ、アナは両親を訴えることになったのか? そのなぞが解かれるとき、しずかな感動がわき起こる。

 わき起こるのだが――うーん、まあ、奇麗事といえばそうなるかも。ぼくはいい映画だと思うし、感動した。でも、あまりにも理想的すぎる展開だという疑問がのこることは否めない。

 この映画では、出てくるひとは皆、善人で、ケイトのことを深く思っている。そこが、現実にはこうはいかないだろう、と思えてしまうのである。

 結局、あくまでこれは難病の少女と家族を描いた映画であって、デザイナー・チャイルドを巡る倫理的な問題には立ち入るつもりはないのだろう。ある種、デザイナー・チャイルドを抱える家族の理想像を描いた映画であるといえる。

 難病映画としては秀作であるだけに、もうすこし踏み込んで描いてほしかった、といううらみがのこった。

 でも、ケイトが抗がん剤治療をしている恋人テイラーと初めてキスをするシーンは秀逸。かれとのキスは抗がん剤の味がするのだ。切ない!