何ひとつ心にのこらない良作、『BLOODY MONDAY』。

BLOODY MONDAY(1) (講談社コミックス)

BLOODY MONDAY(1) (講談社コミックス)

一言でいえば、日本版『24』と考えればいいだろう。連載時にどういう風に読まれたかは分からないが、11巻全てを一気に読むと、非常にスッキりする。個人的には「一気に読むことができれば」かなりの良作として楽しめると思う。少年マガジンには、こういう作品が多い気がする。内面の描写が少なく、キャラクターたちにあまり感情移入しないで、外面的な行動の部分で物語を展開させていく手法。実は、物凄く個人的には大ヒットであったのだが、たぶん、これ連載が終わると打ち捨てられて二度と読者に手にとってはもらえないだろうな・・・と思う。というのは、こういうキャラクターの感情を描かない手法は、全く心に残らなんだよね。アニメーション監督の細田守さんと同じ印象を抱く。キャラクターの内面を描かないと共感や、そこに至る心理プロセスを共有しないので、読者の心に深い跡を残さないんだよね。漫画もいいしテンポや脚本のレベルも素晴らしく高いレベルだとは思うが・・・その部分は、たぶん意識している面もあると思うので、「だから駄目だ」とは言えないのだが、惜しい気がする。

 昨夜、ペトロニウスさんがラジオで取り上げていたので、一気に読んでみた。結論からいうと、おもしろかった。おもしろかったのだが――何だろうね、これは。

 ペトロニウスさんが「連載が終わると打ち捨てられて二度と読者に手にとってはもらえない」と書いている通り、ふしぎなくらい心に何ものこらない。

 読んでいる最中は先が気になって読み進めていけるのだが、いざ読み終えてみると、心の底からこう思うのだ。

だから何?

 主人公は「ファルコン」の異名で知られる天才ハッカー

 高校生の身でありながら、その異能を活かし、日本を陰から守る組織「THIRD-i」に協力している。しかし、あるとき、「THIRD-i」に所属する父親が、「ブラッディ・マンデイ」というなぞめいた言葉をのこし、殺人の嫌疑をかけられて失踪してしまう。

 いったい「血の月曜日」とは何なのか? 父は本当にひとを殺したのか? 数々のなぞを抱えながら、かれは恐るべきテロリスト集団とのたたかいに巻き込まれていく。

 ぼくは『24』を見ていないので、比較して考えることはできないが、たしかにハリウッド映画を見るようなスリリングな展開の作品である。

 でも、いってしまえば「スリリングなだけ」なんだよね。その場その場で問題を設定してサスペンスを盛り上げているだけで、それ以上の深みがない。だから、読み終えたあとの感想が「だから何?」になってしまう。

 また、その理由もはっきりしていて、これもペトロニウスさんが書いている通り、内面描写が浅いのだ。ひと言でいって、葛藤がない。主人公が全く悩まない、迷わない、考えないのである。

 おかげで、ぼくはこの主人公に全く魅力を感じることができなかった。ここまで何の魅力のない主人公もめずらしいと思うくらい。

 正義感がつよい少年という設定ではあるが、裏返せば自分が正義の味方であると信じ込んで何の疑問も抱かないようなメンタリティのもち主ということになる。

 ハッカーとしてはたしかに天才的に優れているのかもしれないが、人格そのものは幼稚であり、全巻を通して特に成長したようにも見えない。かれが相手をするテロリストたちの方がよほど人格に深みがあるとすら思える。

 普通、天才とはもう少し個性のあるものだと思うが、この少年には際立った特徴は何もない。おもしろくも何ともない性格である。

 この主人公に象徴される内容の浅薄さは全編に及んでいて、何もかもが浅い印象を受ける。次々と主人公の仲間が裏切ってサスペンスを盛り上げるのはいいのだが、それもどこまでも「裏切りのための裏切り」であって、何ら深刻なドラマを生み出さない。

 おかげで読者は登場人物を好きになることができない。この作品をくり返し再読する人は少ないだろう。その程度といえばその程度の漫画ではある。

 しかし、単なるキルタイムにはこれで十分、という考え方もできる。読んでいるあいださえおもしろければあとに何ものこらなくてもそれでいい、という人にとってはいい作品なのだろうと思う。

 ようするに作品に何を求めるか、という問題なのだ。ぼくなどは良く悪くもフィクションの世界にどっぷり浸っているから、何らかの意味で過剰なものを求めてしまう。

 深い思索、人生を変えるような衝撃、あるいは巨大な感動、そういうものを求めてしまう。しかし、そういった要素は、読書にコストをかけたくない人には必ずしも歓迎されない。

 ペトロニウスさんが希望するところのカルト宗教を妄信する人間の詳細な人格描写など、はたして少年誌でどこまで歓迎されるか怪しいものである。

 もっとディープに内面を描いていけばいわゆる「傑作」になったかもしれないが、「傑作」がヒットするとは限らないのがこの世界である。

 だから、これはこれでいいのだろう。決しておもしろくない作品だとは思わない。ただ、読んでも読まなくても人生が何も変わらない、そういう作品であることはたしかである。

 謎と裏切り、スリルとサスペンス、ただそれだけ。それで十分ではないか。全然十分じゃない? そう思うあなたは「こちら側」の住人である。いっしょに物語の暗い森を散策しましょう。