あなたは「わからないやつが悪い」といえますか?


 『どんちゃんがきゅ〜』にかんして、Twitterで敷居さん(id:sikii_j)とちょっとやり取りしました。「ほんとにすごいの?」と問う敷居さんに対し、ぼくは以下のように答えた。

 いや、どうだろうな。ぼくはこのテーマがすごく好きなんで、多少過大評価しているかもしれない。ようするに「技」のことしか考えられない男が、すべてを犠牲にしてその世界に踏み込んでいこうとするとき、彼に恋した女はどうするか、というそういう話なんですよ。

 彼女が愛して、許して、認めて、尽くせば尽くすほど、その男の「技」がダメになっていくとしたら? 愛と平穏と幸福が男を腐らせて行くとしたら? そのとき女はどうするべきなのか? ひっそりと身をひくべきなのか? しかし、これほど惚れぬいた男と別れることができるものなのか? というお話。

 ぼくはめちゃくちゃすごいと思うんだけれど、ぼく以外にそういうふうに評価しているひとが見あたらないので自信をもって断言できない(笑)。でもとりあえず大好きな作品には違いありません。そうですね、『Sense Off』『SWAN SONG』『らくえん』の次くらいに好き。

 で、もういちど終盤をプレイしなおしてみて、いった。

 確認しました(笑)。これはすごいです。ひとがどう思うかはわからないけれど、ぼくはすごいと思う。終盤でそれまでの伏線が一気に爆発するんだけれど、そこが圧巻。文句があるとすれば、男性キャラの声がないことくらいかな。ま、少なくとも値段ぶんの価値は絶対にあります。

 そうですね。たとえば『月姫』あたりと比べてもぼくはこっちのほうが好きですね。奈須きのこみたいなかっこよさはないんだけれど、どうしようもない現実と向き合ってのたうちまわる生身の人間のドラマがある。『らくえん』をひきあいに出したのはそういうこともある。

 この言葉に嘘はなくて、ぼくは『どんちゃんがきゅ〜』、超すごいと思う。タイトルからは想像も付かないけれど、これは傑作でしょ。

 はしさん(id:hasidream)が『絃の聖域』みたい、といっていたけれど、まさに同じテーマなんですよ。ひと言でいうと、芸術至上主義の物語ですね。

 富や名声、人並みの幸福を犠牲にしてだけ追い求められる「道」がある。あるひとがその「道」を歩むとき、かれは最も愛し、最も惚れぬいたその相手をも芸の神の祭壇にささげなけれならない。その無情、その酷烈。

「わかる――と思います」
 大介は静かに云った。
「あなたが格闘していたのは、芸、というその怪物だったのですね。あまりにもすばらしく、あまりにも神々しく、ひとのわざでありえぬまでに神に近く、それへ入る人々をみな狂わせてしまう――あなたは芸によって名誉をきわめたけれども、そのために失ったもののことを思えば、どうしても、芸というものを、ゆるすことができなかったのですね」

 大介は呆然とききほれた。どうして、ただ胴に皮をはり、それに糸を張った華奢な楽器から、これほどまでに妖美な、しかも清澄な音が生まれることができるのか。同じように、同じふしまわしを、同じ人間が引く、そのどこで、これほどまでにあるもののそれは心をゆさぶり、撥まわしひとつで自在に人の心をあやつって泣かせ、あるものは、ただふしまわしをなぞるにとどまる、という違いが生まれるのか。
 その目にも見えない、しかも致命的なちがい、それこそは「芸」なのだ――そのために、何百、何千の人が、何百年の昔から、泣いたり、笑ったり、一生を狂わせたりしてきたことだろう。

『絃の聖域』

 ひとを芸の地獄道へと駆り立ててやまぬ、修羅の「業」。

 しかも『どんちゃんがきゅ〜』のクライマックスでは、この「男の業」に、もうひとつ、「女の業」が重なる。そこがね、すばらしいですね。ぼくはすばらしいと思う。

 もちろん、この頃の栗本薫ほどの表現力があるわけじゃないんだけれど、主題的には同じものを取り扱っていて、しかも出した結論が違う。これはね、たまらないですね。これこそ物語を読む喜びというものです。

 ただ、ひとがどう思うか、そこまではわからない。結局、本当のところ、あるひとがその作品を気に入るかどうかなんて、わかるはずないんだよね。だから、ひとに何かを薦めるときは、自分の感覚を信じるしかない。

 ま、『絃の聖域』は読む人ことごとく絶賛する折り紙付きの傑作ですから、自分の感性に自信をもちやすいんだけれど、『どんちゃんがきゅ〜』はなあ。「エロゲー批評空間」とか見てもそこまで評価が高いわけでもないからなあ。

 それでも、「ぼくは」すごいと思う、そのことは事実。だからまあ、ぼくは絶賛するんですけれど。ただ、「わからない奴が悪い」とまでいえるかどうかは微妙なところ。『SWAN SONG』辺りだとそういえるんだけれど、さすがにそこまでの作品じゃないんだよね。

 でも、やっぱりすばらしい。ぼくにはすばらしいとしか思えない。そういうわけで、『どんちゃんがきゅ〜』、オススメです。ぜひやってみてください。

絃の聖域〈上〉 (角川文庫)

絃の聖域〈上〉 (角川文庫)