男はいつも待たせるだけで
女はいつも待ちくたびれて
それでもいいと慰めていた
それでも 恋は恋松山千春『恋』
DL購入して2週間、クリアしてからも既に二日が過ぎたわけですが、未だに『どんちゃんがきゅ〜』熱が冷めやりません。
こんなタイトルではありますが、本当にいいゲームだと思うのですよ。ただ、『SWAN SONG』辺りと同じく、本来届くべき層に届いていない気がしてならない。
エロゲというメディアで発表した時点でエロゲファンにしか届かないわけで、それは非常にもったいないことに思えるんですよね。じっさいにはもう少し普遍性がある作品なんじゃないかと。
この作品の主題は「男のロマン」と「女のロジック」の対立、対決です。こう書いただけでもう何だか古くさく思えるし、じっさい古くさい話なんだけれど、しかしこのテーマを描き抜いた作品というと案外少ないかもしれない。
ぼくがこの作品をプレイしながらしきりに思い浮かべたのは、永野護『ファイブスター物語』の第11巻でした。
ファイブスター物語 (11) (ニュータイプ100%コミックス)
- 作者: 永野護
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/04/17
- メディア: コミック
- 購入: 4人 クリック: 84回
- この商品を含むブログ (39件) を見る
これもまた、「男のロマン」と「女のロジック」の対決を描いた作品なんですね。
時あたかも星団を揺るがす「魔導大戦(マジェスティック・スタンド)前夜。
ハスハ王国の騎士団長ダグラス・カイエンは、数百年を連れ添ったパートナー、ファティマ・アウクソーに別れを告げ、全騎士団に号令をかけたあと、ひとり、死地へおもむきます。
自分の力が通用しないことを知った上で、敵国バッハトマの魔導師ボスヤスフォートから主君を守るつもりなのです。ふだんはどうしようもない男ですが、このときのカイエンは非常にかっこいい。まさに「男のロマン」です。
しかし、そんなカイエンの前に立ちふさがるひとりの女性がいました。ミース・バランシェ。かつてカイエンがある村で拾った少女の成長した姿です。
いまや星団有数の科学者へと成りあがったミースは、カイエンにかれの子供を身ごもっていることを告げます。といっても、自然妊娠したわけではない。自分の子宮をファティマ型のものに取り替えて、人工的にかれの子供を受胎したのです。
ミースはひとり死地へおもむこうとするカイエンに取りすがり、いいます。
「聞いて! 私自分の卵巣をアウクソーの体に入れたの!」
「そうよ! アウクソーにお願いしたの! あなたの子供が欲しいって!!」
「だって! 好きなんだもん…おじさんのことしか考えてないんだもん… 誰よりもよく…おじさんのこと知っていたかったんだもん」
「おじさん… …やだ… 行かないで!! 死んじゃやだ!!」
これが「女のロジック」だと思うんですよ。
すがる女を振り捨てて死地へ馳せ参じる、己の仕事を貫き通すというのは、相当に普遍的な「男のロマン」です。
司馬遼太郎『燃えよ剣』の土方歳三なんかもそんなかんじだし、ああ、そうだ、『あしたのジョー』もそうかな。最近の作品だと、今週の『バクマン』がちょうどそんな話でしたね。
しかし、そういう男を好きになった女性にしてみれば、愛しい男にかっこよく死んでほしくなんかない。いっしょに生きていてほしいわけです。
この時、カイエンはある意味、騎士として最高の死に場所を得ているわけで、主君ムグミカ王女を守って斃れることに躊躇はないでしょう。
でも、ミースはそのことがわかっていても、かれに死んでほしくない。だから、泣く。わめく。すがる。しまいにはあなたの子供を妊娠しているのよ、とか言い出す。どんな手を使ってでも自分の男を死なせまいとする。
そのあいだ、ファティマ・アウクソーが無言のままたおれていることとは対照的です。つまり、これがファティマならぬ「生身の女」の態度であるわけです。
結局、カイエンはそんなミースを気絶させて、ボスヤスフォートとたたかい、死んでしまうので、ここでは「女のロジック」に対し「男のロマン」が勝利を収めたことになるのでしょう。
たしかにカイエンの死にざまはかっこいい。しかし、かれはさいごまで自分を必死に愛してくれる女と向かい合う向きあうことができなかったわけで、これじゃ、ミースの立場がないとも思うんだよなあ。ちょっと男に都合が良すぎる展開なんじゃないか。
そこで、『どんちゃんがきゅ〜』に戻るわけですが、この作品でも、さいごに男女の理屈が真正面からぶつかりあいます。
男の見栄を通そうとする俊夫に対し、紀子が取る態度は必見です。ここはさすがにネタバレしてしまうわけにはいかないので、自分で買ってやってみてくださいとしかいえないのですが、それは一瞬、俊夫の身勝手な「男のロマン」を吹き飛ばします。
この瞬間、紀子は俊夫にとっての女神、聖女であることを超えて、生身の女としての自分をさらしてかれと向かい合うのです。そこでぼくは応援します。そうだ、どんちゃん、もっといってやれ!
このばあいも、男に都合がいい話であることはそう変わりはないし、先にも書いたように、いかにも古くさい展開ではあります。でも、エロゲでこういう話をやってのけたということはなかなか斬新だとも思うんだよね。
男は女を「聖女」に祭り上げたり、「悪女」とののしったりするけれど、じっさいの女性、というか人間は、そのはざまで混沌を抱えつつ生きているもの。そういう生身の女性を描いた作品は、エロゲではめったにないと思う。
これ、女性がプレイしたらどういう感想を抱くのか、不快に思うのか、共感するのか、訊いてみたい気がするけれど、プレイしている女の人は相当少ないだろうなあ。
ま、とにかく「男のロマン」が一方的に通る時代じゃないし、そうあるべきだよなあ、と思うわけです。「男はいつも待たせるだけ」じゃねえだろ、と。
でも、やっぱりあこがれるんだけどね、「男のロマン」。男の子だもん。