欠点がひとを輝かせる。


 ここ数日、小説や漫画において、初めさっそうと登場した女性人物が、恋に落ちることによって「堕落」し、「格」を落とすことを嘆く話を続けている。

 ぼくはべつだん、恋に生きることを否定するつもりはないが、そういう人物を見つけるたびに何かもやもやした気持ちになることはたしかだ。

 恋しながらなお、ヒーローとしての生き方を完遂する女性を見てみたい!

 もちろん、いままでそういうヒロインが全くいなかったとは思わない。たとえば、『ファイブスター物語』のアイシャ・コーダンテはどうだろう*1

 アイシャは大国A・K・Dの王女で、ミラージュ騎士団の柱石である。既に中年を過ぎつつある年齢だが、その美貌は衰えず、また明るく優しく自由奔放な人柄も変わらない。

 そして主君に対し実らぬ恋心を抱いていたり、年下の少年騎士といいかんじだったりと、恋愛描写にも事欠かない。まさにFSSの女性人物を代表する存在であり、FSSの数百名に及ぶ登場人物のなかでも、最高の人気を誇っているという。

 たしかに、アイシャは魅力あるキャラクターだ。それはぼくも認める。そして今後も恋愛沙汰で「堕落」したりすることは決してないだろう。

 しかし、ぼくの好みでいうと、アイシャは少し完璧すぎるきらいがある。何しろ、妹のワスチャが劣等感を抱いて家出してしまうくらいの完璧さなのだ。

 彼女と人気の点で双璧をなすキャラクター、剣聖ダグラス・カイエンが、最強の騎士でありながらふだんは欠点だらけの素顔を見せることとは、ある意味、対照的である。

 で、ここまで来ると純粋に趣味の問題になってしまうけれど、ぼくはアイシャのようなタイプよりカイエンみたいなタイプの方が好きなんだよね。

 最高にチャーミングな人格とは、本来欠点と受け取られるものまでが魅力として映るようなものだと思うのである。

 欠点だらけであっても、いや、欠点だらけだからこそ好きにならずにいられないような、そういうキャラクターをこそ、ぼくは愛する。

 その意味で、たとえば、『カルバニア物語』のエキュー・タンタロットは理想に近い。

 エキューはカルバニアの公爵令嬢として生まれながら、奔放不羈に、ほとんど好き勝手に生きる少女である。

 敵は少なくないものの、基本的にはだれにでも好かれる快活な性格のもち主の上、絶世の美少女、剣の達人でもある。エキューの知人は彼女を称してこういう。

「エキュー 気にくわないことなどひとつもない 本当のことを言おう いつも君には敬服している 君は公正で勇気があって努力家で そりゃあ大した女だ 君こそはきっとタンタロット公爵がおつくりになった最高傑作だろう」

 ここまではアイシャと同じなのだが、エキューには長所と同じくらい欠点がある。

 何かというとトラブルを起こすし、喧嘩好きだし、弓が下手で彼女が弓をもつと周りの人間は逃げまどう。また、小さな乳房にはコンプレックスを抱いていて、公爵家の金を使ってパットを買っては詰め込む。

 しかし、そうであるからこそ、エキューはきわめて魅力的な少女だ。

 そんな彼女にもあるとき、「恋愛という試練」がやって来る。父が放棄した公爵位を継ぐことになった彼女は、恋人であるニックス公爵ライアンにこういわれる。

「エキュー おまえ本当にちゃんとわかってるのか!? もしもおまえがタンタロット公爵になってしまったら もはやもう絶対に私たちの結婚なんかありえないんだぞ…………!! おまえはどーだか知らないけど 私はおまえと一緒になりたいんだよ だからおまえには投票しない」

 地位を取るか結婚を取るか、エキューは選択を迫られる。けっきょく、彼女は地位を選び、公爵位を継ぐことになる。

 そして、そうなっても、また「恋愛という試練」を経ても、エキューはあいかわらずエキューであり、少しも変わった様子はない。

 物語の進行は遅いが、おそらく、これから、エキューはタンタロット公爵として、親友の女王タニアとともに、カルバニア王国の運営にたずさわることになるだろう。

 すばらしい。全く、すばらしい。ぼくが希求しているのは、つまるところ、こういうキャラクターである、と断言してもいい。

 『カルバニア物語』が賞賛に値するのは、エキューのような生き方だけを是としているわけではないところである。エキューの知人のある少女はいう。

「本当は私は……ずっと家にいて愛する人のためにお料理したりお裁縫したりしているかわいい〝お嫁さん〟になりたいんです でもお母さまにその話をすると〝時代に逆行している〟とか〝古くさい漬物みたいな考え方〟とか言われちゃって…」

 こういうそれこそ恋愛至上主義的とも取れる意見も作中では別に否定されることはない。

 それぞれの人間にそれぞれの生き方がある、というあたりまえのことを、非常に素直に描いていると思う。

 こうでなくちゃ!

ファイブスター物語 (1) (ニュータイプ100%コミックス)

ファイブスター物語 (1) (ニュータイプ100%コミックス)

カルバニア物語1 (Charaコミックス)

カルバニア物語1 (Charaコミックス)

*1:最新巻で女王に即位し、アイシャ・ルーマーとなったが、ここではこう書く。