漫画における「自動翻訳システム」。


 異世界を舞台にしたSF/ファンタジー漫画が好きだ。

 『ベルセルク』、『Landreaall』、『ユーベルブラット』、『ファイブスター物語』などなど。

 しかし、この手の漫画を読んでいると、時々考えてしまうことがある。漫画における「翻訳」の問題についてである。

 たとえば、『Landreaall』には関西弁を喋る人物が登場する。かれはいう。

「パティウス王室訛りもほとんど直ったことやし いっそ王室籍を抜けてアトルニアに住もかな〜」

 これはじっさいに関西弁を喋っているわけ「ではない」。あくまでその世界の言語の「パティウス王室訛り」を喋っているはずである。それが関西弁に「翻訳」されて表現されているわけだ。

 また、『ファイブスター物語』では、ある人物の喋る「バビロン方言」がドイツ語で表現されている。これもまた、本当にドイツ語を使っているわけではなく、「ほとんど通じないほどきつい方言」をそういう形で表していると考えるべきだろう。

 ちなみに太古に存在したある国の言葉は中国語で表現されている。

 同じような例は他の漫画でもいくつもあるだろう。

 こう考えていくと、もうひとつの元々自明な事実にもあらためて気づくことになる。標準語で表現されているその世界の一般的な言語もまた、「翻訳」されているということである。

 DXも天照もガッツもあくまでその世界の言語で会話しているはずなのだ。ただ、それが漫画の形で表現されるとき、自動的に「翻訳」されるだけなのである。

 ぼくたちはこの「自動翻訳システム」に慣れきっていて、主人公たちが何語で話していようが気にせず漫画を読むことができる。

 さて、ぼくたちの住むこの世界を舞台にした漫画でも、この「自動翻訳システム」は登場する。いうまでもない、外国語が絡む場合である。

 漫画では、良く、日本人の主人公と外国人があたりまえのように会話をする場面がある。たとえば、推理漫画の名作『Q.E.D.』では、英語を初めとする外国語をろくに話せないはずの人物が、外国に行っても平然と会話している。

 なぜこんなことがありえるかといえば、その外国人が話す外国語が日本語に「翻訳」されているからである。これによって、見かけ上、日本語同士の会話に見え、言葉が通じないもの同士が平然と対話しているという不自然さが減殺される。

 じっさいには矛盾しているものが、一見すると矛盾していないように見えているわけである。もちろん、本当はおかしいとだれでもわかっているのだが、大半のひとは「漫画のお約束」として受け入れているだろう。

 どこへ行っても「日本語」が通じる世界! ドラマや映画ではなかなか許されそうにない、漫画やアニメならではの現象だ。

 『ジョジョの奇妙な冒険』では、時々、外国人が日本語でしかありえないギャグを用いることがある。あれはこの「自動翻訳システム」が作用しているからこそかろうじて成り立つギャグだと思う(それでも相当に違和感があるけれど)。

 いや、しかし、日本人と外国人の会話に限るなら、もうひとつ可能性が考えられる。何らかの理由で日本人人物が外国語を憶え、その言葉で会話しているという可能性である。この場合、無理はあっても、絶対的矛盾は存在しない。

 しかし、あらためていうほどのことではないが、ぼくたちは、あたりまえのように漫画を読んでいながら、その作品の登場人物が話しているのが、日本語なのか外国語なのか、あるいは未知の言語なのか、それすら良くわからないことがあるわけだ。

 何かのトリックに使えないかな、と思ったりするのだが(「実は話は通じていなかったのだ!」とか)、じっさいにそういう漫画が発表されたら、非難轟々だろうな、きっと。

Landreaall 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

Landreaall 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

Q.E.D.証明終了(1) (講談社コミックス月刊マガジン)

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