『ベイビーステップ』第8巻を読んだ。
- 作者: 勝木光
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/06/17
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この巻も安定したおもしろさ。
あいかわらずそれほど派手に盛り上がるわけではないのだけれど、たぶんそれなりに人気もあるのだと思う。いいかげん打ち切りの心配はしなくて済むようになったと考えていいだろう。
全国屈指の実力者を前に大会で敗退した栄一郎は、フロリダのテニススクールへ2週間通うことになる。ペトロニウスさんも書いている通り、このスクールにはモデルが存在する。
http://athlete-brand.com/tennis/index.html
あの「エア・ケイ」こと錦織圭もここの出身らしい。
ぼくはその錦織の特番で見たのだけれど、本当にこの漫画で描かれている通りの施設だった。
この漫画が良くリアルなテニス漫画の傑作といわれるのは、こういうところに原因があるのだろう。
もっとも、ぼく自身は「リアルテニス漫画」という見方には、一定の保留が必要だと考えている。
『ベイビーステップ』という作品が、必ずしも現実のテニスを忠実になぞっているとは思えないからだ。
もちろん、『テニプリ』と比べたら比較的現実的かもしれないけれど、単純に「リアル」とはいえない側面もいくらかあるのではないか。
そもそも、時と場合にもよるにしろ、スポーツ漫画をリアル対ファンタジーという構図で見ることには、あまり意味がないように思う。
一般的にいって、あるスポーツ漫画にとって重要なことは、いかに忠実に現実を再現しているかということではなく、その作品がおもしろいかどうかであるはずだ。
『ベイビーステップ』にしても、ただ忠実に現実をなぞっているから評価されているわけではないだろう。主人公が手堅く一歩一歩成長していく姿に魅力があるからこそ、読まれているのだ。
それでは、漫画はあくまで漫画、あらゆる意味で現実とは別物、と考えるべきなのだろうか。
そうは思わない。良い作品を読んで感動し、影響を受けることはだれにでもあることだし、そういう体験は無意味ではない。
けっきょくのところ、大切なのは、その作品に登場する現象や技術が現実にありえるものかということではなく、主人公の精神が普遍性をもつものかということではないだろうか。
『ちはやふる』はカルタ漫画であるが、その作品を読んで得た教訓は、カルタ取りにしか役に立たないわけではない。そこには人生に普遍的に役に立つ教えが秘められているのだ。
- 作者: 末次由紀
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『ベイビーステップ』についていえば、第6巻の時点で、ぼくはこう書いた。
勝利し成功するためには、「リスクを承知した上でなおチャレンジするスピリット」が必要だ、ということを『ベイビーステップ』は描いているのである。
はしさんがいうように、これは決してテニスのみに通用する教訓ではない。人生のあらゆる場面においていえることである。
そして、この段階ではただ「リスク」に「チャレンジ」することの必要性が描かれていたわけだが、いま、連載ではそこからさらに進んでより細密にリスクをコントロールする場面が描かれている。
全国屈指の強豪と対戦することになった栄一郎は、大きなリスクを犯すことを余儀なくされる。しかし、そのリスクがあまりに高すぎる(成功の見込みが低すぎる)と感じたかれは、適度なリスクを求めて試行錯誤しはじめるのである。
ここには、読者がこの社会を生き抜くにあたって非常に参考になる教訓が秘められていると思う。そういう意味では、『ベイビーステップ』は「人生の教科書」として読める作品である。
優れた漫画を「人生の教科書」として読むことは、決して無駄なことではない。一見して荒唐無稽な描写を含む作品からすらも、役に立つことは得られるはずだ。
なぜなら、そこには人生を生きていくにあたって必要な心構えが描かれていることがあるからである。描写そのものが非現実的でも、精神のありようは現実的、そういうことはありえる。
たとえば『SLAM DUNK』からぼくたちが学ぶべきことは、「より巧くリバウンドする技術」ではなく、「決してあきらめない不屈の闘志」の方だろう。
その意味で、『ベイビーステップ』が「人生の教科書」として読めるという意見は変わらない。不可能とも思える高い目標にチャレンジする主人公の姿は熱く、学ぶべきものにあふれている。
未読の方は第一巻からどうぞ。
- 作者: 勝木光
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