- 作者: 羅川真里茂
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 1999/03
- メディア: コミック
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ペトロニウスさんのところで知ったのだけれど、とうとう最終巻が発売されたのですね。
第一巻の発売が九九年の三月だから、ここにいたるまで、丸十年。いや、長かった。この長大な物語を弛めず、歪めず、結末まで描き終えた作者に拍手。
物語は、陸上選手として天才的な才能をもちながらテニスへ移った伊出延久と、テニス選手として伸び悩む滝田留宇衣の出逢いから始まります。
初心者でありながら驚異的な速度で進歩していく延久と、精神的な問題で才能を開花させられずにいる留宇衣。あらゆる意味で対照的なふたりは、たがいに影響を与え合いながら成長していきます。
そしていま、かれらは全国大会決勝で遂に相まみえました。はたして歓喜の勝利を手にするのは延久か、留宇衣か。ふたりの天才の三年間を賭けたさいごの試合が始まります。
ぼくは既にだれが勝ったのか知っているわけですが、もちろん、ここに書くわけには行きません。未読の方は第一巻から読んでここまで辿り着いていただければ、と思います。感動のクライマックスがあなたを待ち受けています。
じっさい、これは、読むに値する作品です。
この作品がスペシャルなのは、テニスを通して緻密な心理劇を描き出しているところにあります。
テニスは精神面が勝敗を左右するスポーツ。そのことの苦しさを、作者は驚くべき克明さで描き出していきます。
特に一身にその苦しみを背負っているのが留宇衣です。初めは初心者そのものでしかなかったにもかかわらず、健やかに真っ直ぐに進歩していく延久に対して、留宇衣は悩み、苦しみながら伸びていきます。
その悩ましげな姿は、たとえば『ベイビーステップ』の主人公が全く思い悩むことなく、ひたすらにテニスに没頭していくこととはあまりに対照的です。
『ベイビーステップ』が少年漫画を代表するテニス漫画だとすれば、『しゃにむにGO』はまさに少女漫画らしい作品だといえるでしょう。
おそらく、全読者が延久派と留宇衣派に分かれていたのではないかと思いますが、ぼくは圧倒的に留宇衣派。
そもそも、作者の羅川さんは、こういう悩める青少年を描かせると抜群の巧さを発揮するタイプなのだけれど、留宇衣はそのひとつの達成といえるかもしれません。
試合中、突然に集中力を切らせてしまうというメンタルの欠点を抱えたかれは、時に自己嫌悪し、時に悪戦苦闘しながら、それでもテニスにすがりつきます。
延久がいつもテニスを楽しんでいるのに対し、かれにとってのテニスは苦しみそのものであるようにすら見えます。
それでは、なぜそうまでしてテニスをするのか? その回答は、この最終巻にあります。感動。
すべての物語を読み終えて思うのは、これはやはり留宇衣と延久、ふたりの物語だったのだな、ということです。いずれか片方が欠けても、物語は片手落ちに終わったことでしょう。
いまこそ、この漫画を読むべきとき。三二巻は長いですが、損はさせない、と保障することはできます。傑作です。読みましょう。