問題はオタクがイラッとくることではない。


 「Half Moon Diary」の記事「「オタク成金」にオタクがイラッとくるのは仕様」で言及されているので、めずらしく絡んでみる。

 ただ、天野由貴氏(ノンフィクションライターを自称している割にAmazonを見ても著作がこれ1冊しかないので、誰かの変名?)が山田優と違うのは、おそらく相当グダグダだったであろう――それはあとがきから察せられますが――あかほり先生の語りを曲がりなりにも「読める」本にしたということです。

(中略)

 少し話がそれましたが、そういう観点でこの本を見ると、ちゃんと読みものとして成立していることに気づくはずです。それは天野氏がライターとしての仕事をしたことの証拠なのでは。そういう意味で僕はこの人を「買い」ますね。

 はい、たしかに読める内容にはなっています。その意味では天野さんはライターとして最低限の仕事はこなしているいえるでしょう。

 でも、それ、ほんとに最低限じゃないですか? 「読める」とか「読み物として成立している」ってプロの作品に対する褒め言葉じゃないですよね?

 少しきびしいかもしれませんが、プロシェフが作った料理がたべられてあたりまえであるように、プロライターが書いた本は読めてあたりまえだと思っています。その上で、作品の中身を評価されるのがプロの世界ではないでしょうか。

 もっとも、あかほり先生の主張の裏づけが少ないところ、海燕先生をして「根拠薄弱」と評されているところは意図的なのかなとも思いました。だって、そこを詳しく説明すると、本当にラノベオタクしか理解できない本になっちゃうじゃないですか。それはこの本の趣旨と合わない。

 えっと、ぼくはそうは思わないんですね。

 だって、世の中には初心者としてそれまで知らなかった世界を体験し、わかりやすく紹介した本がいくらでもあるじゃないですか。

 オタク業界に近いところでいうと、たとえば、『封印作品の謎』という本があります。

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)

 この本の著者は「封印作品」を求めるプロセスの最中、それまで興味がなかったあるエロゲをプレイし、意外におもしろい内容であった、と記しています。

 こういう取材に基づく主張をいれても、それだけでライトノベル業界以外のひとに理解できない内容になるとは思えない。もしそうなるとしたらそれは書き手が稚拙なのです。

 べつにエロゲやライトノベルを褒めろ、といっているわけではないですよ?

 「ラノベはわかりづらいという印象を抱いていたが、じっさいに読んでみたらやはりわけがわからなかった。いまのラノベは何かおかしい」という結論でもいい。それなら説得力があるし、オタク業界、ライトノベル業界の外部からの貴重な批判であるといえる。

 しかし、「オタク業界はこのままだとなくなる」「いまのライトノベルは難解になり、一般人に理解しづらいものになっている」と主張している本で、その主張を検証するプロセスの一行も見あたらないということは、やはり片手落ちなのではないでしょうか。

 ぼくは一オタクとしてオタク文化莫迦にされたことを怒っているのではありません。一昨日の記事でもその点は仕方ないと書いています。そうではなく、一読者として著者にプロの仕事を求めているのです。

 ぼくもあかほりさんの主張には耳を傾ける価値があると思っているんですよ。しかし、この本はせっかくのその言葉を活かしきれていない。その意味で、ぼくのこの本への評価は高いものにはなりえません。

アフタヌーン新書 005 オタク成金

アフタヌーン新書 005 オタク成金