『Phantom』。

 異端の才能がある。

 ある枠組みのなかに生まれながらそこからはみ出し、その存在を主張せずにはいられぬ才能である。

 否、あるいは、才能とはそも異端であることを宿命づけられているものなのかもしれぬ。既存の枠組みで捉えきれない異質さこそ才能の条件であるのかもしれぬ。

 虚淵玄はそんな異端の才能のひとつであり、そして『Phantom』はいまなお輝く虚淵シナリオの代表作である。

 その内容はあらゆる意味で異端。異形。いわゆるアダルトゲームでありながら、ハードボイルドを極め、ダークかつシリアスな物語性で読む者を魅惑する。

 発売当初、この作品は全く話題にもならなかったという。初期出荷はごくわずかで、虚淵は首を覚悟したという。

 しかし、その後、ネットを中心に口コミでその出来は広まっていき、いまではニトロプラスを代表する作品として知れわたることになった。

 その評判から今年に至ってついにテレビアニメ化したことはご存知の通りである。また、虚淵自身の手によって小説化もされている。

 しかし、やはり原作の魅力は他メディアを圧倒するものがある。この名作がDL販売によって安価で手軽に買えるようになったことは幸運だ。このチャンスに新たに多くのひとに手にとってほしい。

 物語はアメリカに始まる。合衆国全土を震撼させたマフィア幹部連続暗殺事件。観光のために日本から渡米した少年は、偶然からその事件の目撃者となってしまう。

 信じられないことに、暗殺者は年端もいかない少女だった。彼女こそは新興犯罪組織「インフェルノ」最高の暗殺者「ファントム」。

 彼女は「アイン(ドイツ語で「1」の意味)」と名乗り、かれを「ツヴァイ(ドイツ語で「2」)」と呼んだ。その日から、すべてを奪われたツヴァイの殺し屋としての日日が開始する。

 訓練に次ぐ訓練、実戦に次ぐ実戦は、少年を、アインに次ぐ暗殺者として覚醒させていく。

 そもそも、暗殺者としての破格の天稟を見込まれ、「ツヴァイ」として選ばれた少年である。ひとたびそのからだに血を浴びる覚悟をしたならば、だれよりも優秀にひとを殺すことができた。かれとアインは最高のコンビネーションとして数々の事件を起こしていく。

 ここらへん、スピーディな展開がすばらしいのだが、それはじっさいにプレイしてたしかめてみてほしい。

 あるとき、ツヴァイは、組織の幹部の手により失われた記憶を取り戻す。そして自分の意思で生きることになる。

 一方、洗脳されたままのアインは、彼女の主人であるサイス・マスターとともにインフェルノを裏切り姿を消す。アインがいなくなったあと、ツヴァイは組織最高の暗殺者を示す称号「ファントム」を継ぐことになる。ここに二人目の亡霊が誕生したのである。

 しかし、やがてかれもまたインフェルノを抜け出すことになるのだった。そして選ばれる三人目の「ファントム」。暗黒の宿命と銃器を操る天才とを併せ持つ彼女は「ドライ(ドイツ語で「3」)」と呼ばれた。

 たがいにほどきようもないほどもつれ合った関係をもつ、三人の「ファントム」。皮肉な運命はかれらをふたたび巡り会わせる。決戦の地は日本。インフェルノにより平穏な人生を奪われた亡霊たちのたたかいは、はたしてどう決着するのか? 最後の「戦争」が始まる!

 とこう粗筋を書き出しても、むろん、じっさいの物語のおもしろさは伝わらないだろう。この作品の魅力は一にその悲劇性にある。

 三人のファントムたちを襲う運命はあまりにも皮肉で無残である。特のツヴァイを待ち受ける不運は読んでいて泣きたくなるほど。どうしてこう運が悪いんだ、この男は。

 だれよりも幸福を求めながら、誤解が誤解を呼び、悲劇が悲劇を生むその展開は、神の悪意を感じさせる。

 ただ、決して暗いだけの話ではないので、安心してほしい。何より過剰なまでにドラマティックな展開は読む者を飽きさせない。いったん読み始めたら、物語が終わるそのときまで、退屈とは無縁でいられるはずである。

 もっとも、平和な日本で育ったツヴァイが暗殺の天才であることを初め、物語の骨子そのものはある意味でご都合主義的、ファンタジィ的といえなくもない。

 しかし、銃器の描写を初めとする細部の描写はリアルそのもので、そのファンタジィとリアリズムの混交がこの作品のひとつの魅力となっている。

 両者はむろん水と油の関係にあるはずだが、この作品のなかではふしぎと良くなじむ。あまりにもドラマティックかと思えば、繊細なまでにリアル、そんな作品なのだ。

 その背景にあるものは、数多くの映画へのオマージュだろう。ジョン・ウーばりの二挺拳銃を初めとして、この作品では映画的シチュエーションが多様されている。

 結果、いくつもの名場面が生まれている。摩天楼におけるツヴァイとなぞの打ち手のスナイプ合戦、アインとドライが互いの眉間に銃を突きつけあう場面などなど。

 不世出の天才を絶え間ない訓練で磨き上げたツヴァイのヒロイックな活躍は、きっとあなたを魅了してやまないはずだ。

 また、本作は『Phantom』シリーズ最新作にあたる「INTEGRATION(統合)」版である。PS2版などで使用された新シナリオ、新CGなどが統合された、まさに最新にして最高の『Phantom』といえよう。

 ぼくのゲーム遍歴のなかでも指折りの作品です。ぜひ遊んでみてください。DLサイトへはここから。