香山リカ、衰えたり!


 ↑に並べた本はいずれもそれなりにおもしろく、ためになったのだが、たくさん読んでいれば当然、「はずれ」とも巡り会う。香山リカ『スピリチュアルにハマる人、ハマらない人』もそんな一冊。

スピリチュアルにハマる人、ハマらない人 (幻冬舎新書)

スピリチュアルにハマる人、ハマらない人 (幻冬舎新書)

 最近の香山リカに対するぼくの評価は非常に低いので、読む前から「これははずれかな」と思っていたのだが、予想通りいまひとつ、いまふたつ、いまみっつくらいの本だった。何より、牽強付会が多すぎる。

 たとえば、香山は子どもたちの死生観が変わりつつあることの例証として、森絵都『カラフル』を取り上げる。事切れた少年がある少年のからだを借りてふたたびこの世に舞い戻るという筋立ての小説だ。

カラフル (文春文庫)

カラフル (文春文庫)

 香山はいう。

 一般的には『カラフル』を評価する人たちの多くは「生き返り」そのものにはあまり言及せず、「登場人物たちの生き生きした描写」「リアルな会話」「ストーリー展開のテンポの良さ」などをこの作品の良さとしてあげる傾向があるようだ。とは言え、やはり「生き返り」を抜きにしては、この作品を語ることはできないだろう。
 そして、いくら会話がリアルでも、子どもたちが「生き返り」をまったく信じていなかったり、興味がなかったとしたら、この作品がベストセラーになることはなかったのではないだろうか。『カラフル』が子どもたちにとって「初めて出会った〝生き返り〟」となった可能性もあるが、逆に「生き返り」に興味を持つ子どもが増えつつあったからこそ、この作品がすんなり受け入れられたとも考えられる。それにもかかわらず、この作品を「児童文学の記念すべき名作」と高く評価する声こそあれ、「オカルト的」と批判した文章は、少なくともこれまで私の知るかぎりではない。

 あたりまえである。『カラフル』はどこをどう見ても「オカルト的」じゃないんだから。

 たしかに「生き返り」は出てくるが、物語の小道具として登場するだけであって、「ひとは死んでも生き返る」と主張しているわけではない。むしろ(ネタバレになるのでくわしくは書けないが)この作品のテーマは一度しかない人生のかけがえのなさだといえるだろう。

 こんな理屈が許されるなら、こういうふうにいうことも許されるはずである。

 一般的には『ハリー・ポッター』を評価する人たちの多くは「魔法」そのものにはあまり言及せず、「登場人物たちの生き生きした描写」「リアルな会話」「ストーリー展開のテンポの良さ」などをこの作品の良さとしてあげる傾向があるようだ。とは言え、やはり「魔法」を抜きにしては、この作品を語ることはできないだろう。
 そして、いくら会話がリアルでも、子どもたちが「魔法」をまったく信じていなかったり、興味がなかったとしたら、この作品がベストセラーになることはなかったのではないだろうか。『ハリー・ポッター』が子どもたちにとって「初めて出会った〝魔法もの〟」となった可能性もあるが、逆に「魔法」に興味を持つ子どもが増えつつあったからこそ、この作品がすんなり受け入れられたとも考えられる。それにもかかわらず、この作品を「児童文学の記念すべき名作」と高く評価する声こそあれ、「オカルト的」と批判した文章は、少なくともこれまで私の知るかぎりではない。

 『カラフル』を『ハリー・ポッター』に、「生き返り」を「魔法」に入れ替えただけだが、こうしてみると香山の主張の無理がわかる。

 香山にいわせれば、

 九○年代も終わりに近づき、〝オウムアレルギー〟も一段落した頃に登場した児童文学の名作『カラフル』は、この「死後の世界は実在する」「死んだ人も生き返る」という地下の鳴動が一気に顕在化するひとつのきっかけを作ったと言えるのではないだろうか。

 ということになるのだが、これはどう考えても無理があるだろう。だって、『カラフル』ってこんな小説だぜ?

 死んだはずのぼくの魂が、ゆるゆるとどこか暗いところへ流されていると、いきなり見ずしらずの天使が行く手をさえぎって、
「おめでとうございます、抽選にあたりました!」」
 と、まさに天使の笑顔をつくった。

 いくら子供だってこんなことが現実にありえないことはわかるだろう。もちろん、それは小説の欠点ではない。小説と現実をごちゃ混ぜにして考えることがおかしいのである。

 そしてまた、香山にいわせれば、ホラー映画『リング』の大ヒットも、現代人の死生観の変化を表している。

 次の動きは、若者のあいだで起きた。九一年に出版されて大きな話題を呼んだ鈴木光司氏のホラー小説『リング』が、九八年になって映画化され、記録的な大ヒットとなったのだ。いまさら説明するまでもないが、『リング』は、貞子という死者の霊の怨念で念写されたビデオを見た人は必ず謎の死を遂げる、という物語であった。大ヒットの最大の理由はもちろん映像の完成度なのだろうが、中には「死のビデオは実在する」「貞子のような亡霊はほかにもいる」などと本気で信じて怖れる若者もいたと聞いた。

 聞いたって、だれに聞いたんだろ。単なる都市伝説なのでは。

 ま、それはもちろん、そういうひともいたかもしれない。いてもおかしくはない。しかし、それでも、大半の観客は単なる娯楽作品として消費したはずである。これを理由に若者が死後の世界を信じるようになりつつある、と見るのはこじつけが過ぎると思う。

 そういうわけで、評価できない一冊。『カラフル』は名作なので、ぜひご一読ください。