『綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー』

綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)

綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)

 これはちょっと素晴らしいですね。現代を代表する推理作家、綾辻行人有栖川有栖の対談集、なのだが、ただの対談集ではない。対談の合間に小説が挟んであるのである。いわば対談集とアンソロジーの合いの子ともいうべき一冊。

 このアイディアを、有栖川はラジオのディスク・ジョッキーから思いついたのだという。縷々と語りたおすDJが、トークの合間に音楽を挟む、その妙技に倣って、本を作れないか。そういうところからこの本は生み出されたのだとか。

 通常の対談集では、ネタバレ(綾辻によると、「ネタバラシ」が正しい)箇所では、そのむね注意書きが付され、「未読の方はご遠慮下さい」と読者をシャットアウトしてしまうのが常だが、この本ではその必要はないわけだ。なかなかに画期的なアイディアではないか。

 じっさい、一々ネタバレを気にしなくて良いおかげで、綾辻と有栖川の会話は冴えている。その時々で話はいろいろな方向へ飛ぶが、グランド・テーマは「本格の何がおもしろいのか」。

 あまりにも基礎的、と思えてしまう選択だが、その実、ベテラン作家であるふたりにも簡単には答えが出せない問題なのだという。

 そう、本格のおもしろさを知らないひとに伝えることは案外むずかしい。そのロジックの美しさに惹かれる、といっても、ただのパズルでは満足できないのだから。

 いったい我々は本格推理のどこにこれほどまでに惹かれるのか? 綾辻と有栖川はお互いの感覚の「ずれ」を照らし合わせながら、その魅力的な「謎」ににじり寄っていく。

 もちろん、その合間に挟まる収録作もドイル、カー、クイーン、乱歩、竹本健治泡坂妻夫など、豪華絢爛。

 有名な作家の高名な作品からも採っているだけに本格マニアの方は既読の作品もあるかもしれないが(ぼくはあった)、そういうひとでも対談の方は楽しめるだろう。いや、よくできた本である。おもしろいおもしろい。

 そして、収録作のなかでも「傑作!」とひざを叩いたのが、井上雅彦「残されていた文字」。タイトルこそ地味だが、これは非常によくできたショートショートである。ぼくの読書歴のなかではベスト・オブ・ショートショートかも。

 おそらく原稿用紙にして10枚に満たないであろう短い、短い作品だが、その内容は素晴らしいのひと言。何を書いてもネタバレになってしまうので、読んでもらうしかない、という種類の逸品である。

 いや、ほんと、サプライズものが好きな方は立ち読みでもいいからこれだけは読んでおいてください。きっとおどろく。

 有栖川有栖いわく、「人類ならば、騙されないやつはいないでしょう」。ぼくはそこまでいわないが、たいていのひとは騙されると思う。この結末は、一生忘れられないだろう。

 忘れたくない。