『妃は船を沈める』

妃は船を沈める

妃は船を沈める

 〈臨床犯罪学者〉火村英生シリーズの長編第8弾。なかなかの秀作、というところか。その年の『この本格ミステリがすごい!』で1位を獲った『乱鴉の島』よりおもしろいと思う。

 今回、いくつもの事件をじっさいに捜査、推理し、解明してきた〈臨床犯罪学者〉の火村を待ち受けているのは、一件の溺死事件。ある男性が自動車のなかでおぼれ死んだだけの事件だが、警察は殺人の可能性が高いという。

 そして、容疑者として浮かび上がってきたのは、何と、水恐怖症で泳げない男だった。いったいどのようにして事件は起こったのか?

 不可能趣味あふれる中篇「猿の左手」とその続編ともいうべき作品「残酷な揺り籠」を合わせて一篇の長編に仕立て上げた小説である。

 先述した通り作品の出来はかなりのものだ。火村が縷々と述べ立てる「猿の手」の「もうひとつの真相」もおもしろいが、やはり見所はさいごに犯人を追い詰めるロジック。

 逃れられそうで逃れられない、ふしぎに堅牢な論理の檻。ちょっと動機に無理があるし、学生アリスシリーズに比べると一歩譲ると思うが、それでもわくわくする魅力がある。

 こういうけれん味のない推理を描く作家は少ないと思うので、有栖川有栖にはぜひこの路線で今後も書き続けてほしいものである。