- 作者: 泉和良
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/07/02
- メディア: 単行本
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よく見ると、メールには添付ファイルがあった。
昨日の日記の内容が蘇る。
まさか……、パンツが……
いやいや……、焦ってはいけない。
そんな都合のいいパンツなどあるだろうか。
その男の名はジスカルド。フリーウェアゲームの世界ではその名を知られたクリエイタである。
フリーウェアゲームとは、オンラインで無料販売するゲームのこと。その内容は千差万別だが、営利を目的としていない点が共通している。
しかし、ジスカルドはその売上げで生活していた。ゲームそのものは金にならなくても、その副次品で食べていくことができるのだ。
もっとも、その実態は今日の生活費にも事欠くありさま。ある日、とうとう切れたかれは、ウェブログでこう告知する。
『この日記を見た女の子は
今すぐに、自分のいやらしいパンツ姿の写真を携帯で撮って、
メールでぼくに送って下さい!
直ちに! 早く!』
翌朝になったら後悔するたぐいの戯言。しかし、何と、本当に女の子から下着姿の写真が送られてきた。奇妙なメールを書くその少女の名前はエレGY。
さっそくジスカルドは彼女に逢ってみた。彼女もまた、本当の自分を知ったら幻滅して去っていくに違いないと思いながら。とびっきりキュートな恋の物語が始まる!
えっと、何というか、何といったらいいか、何というべきなのか、とにかく「最高傑作級!」の一作でした。
乙一と滝本竜彦が絶賛しているそうだけれど、たしかにかれらと同世代の匂いを感せる作品。初めて『ネガティブ・ハッピー・チェーンソー・エッヂ』を読んだときと同じ種類のインパクトですね。
いや、作者自身の体験をもとにしているという意味では『NHKにようこそ!』の方に近いか。怖ろしいことにこの物語の主人公であるジスカルドこと泉和良は実在の人物で、フリーウェアゲームサークル「アンディー・メンテ」も実在します。
そういう意味では、私小説とすらいっていいでしょう。もちろん、フィクションも含まれているはずですが、フリーウェアゲームにかんする事々には、生半では書けない生々しさがあります。
「アンディー・メンテ」にかんしてはここら辺参照のこと。
http://d.hatena.ne.jp/Erlkonig/20060424/1145808562
そんななかで、フィクション性が高いと思われるのがエレGY。何と彼女も実在するのだそうですが、実に実にキュートに描かれています。かわいいです。萌えます。
リストカット常習者のヤンデレキャラではあるのですが、そりゃじすさんも惚れるわ、と思わずにいられないラブリーさ。彼女とジスカルドの会話を読んでいるだけでも楽しい。
物語のアウトラインだけ取り出せば平凡なラブストーリーなのだけれど、とにかく抜群にセンスが良くて、すらすら読める作品です。
「読みはじめたと思ったら読み終わっていた。な、何を言っているのかわからねえと思うが(略)」という感じ。今年ぼくが読んだ小説のなかではいちばん読みやすいんじゃないかな。
とりあえず2000年代を倦怠とともに過ごした全男子にお奨めの傑作恋愛小説。女子はどうかな。ちょっとわかりませんが、男の子だったらこれは来るでしょう。
次回作が楽しみの作家がまたひとり登場しました。