『スカイ・クロラ』漫才。

スカイ・クロラ (中公文庫)

スカイ・クロラ (中公文庫)

▼おひさしぶりです。押井守監督の『スカイ・クロラ』をご覧になったそうですね。

▽はい。もう1週間近く前になりますが、映画館で観て来ました。

▼いかがでしたか。

▽ひと言でいうと、とてもおもしろかった。押井守の新境地だと感じました。飛行機好きの方はぜひ観てみるべきだと思いますよ。

▼と仰るからには、飛行機がたくさん出てくる映画なんですね。

▽はい。しかし、それだけではありません。いまから遠い時代、あるいは遠い場所、人類が完全な平和を手に入れた世界が舞台です。しかし、その平和を守りつづけるためには、どうしても「戦争」が必要不可欠なんですね。そこで、人びとの心に平和を実感させるため、「ショーとしての戦争」が行われることになります。

▼そのコピーは、ポスターにも使われていますね。刺激的な印象です。

▽そうでしょう。その戦争を担うのが、「キルドレ」と呼ばれる不老の子供たちです。永遠に歳を取らないかれらは、戦死しないかぎり、ずっと生きつづけるんですね。あるとき、キルドレの一人、函南優一(カンナミ ユウイチ)は、とある基地に赴任し、そこで、自分と同じキルドレである草薙水素(クサナギ スイト)と出逢います。それが、かれの運命をねじ曲げる出逢いとあると気づかぬままに。

▼なるほど。それで、どう捻じ曲がるんですか。

▽それは秘密です。ご自分で映画館へ行って確認してください。とにかく、原作を巧みに消化した良質な映画であることは間違いないと思いますよ。大傑作、と見るかどうかはひとそれぞれでしょうが、わたしはそう感じました。

▼あなたの見方はどうも信用できないからなあ。だまされた被害者が何人もいるという話です。

▽何か、いいましたか?

▼いいえ。おもしろそうな映画だということはよくわかりました。ところで、わたしはまだ原作を読んでいないのですが、それでも楽しめるでしょうか。

▽問題ないと思いますよ。わたしが原作を読んだのはずいぶん昔の話なので、都合よくいろいろ忘れていましたが、それでも十分楽しめましたから。個人的には、歴代の押井映画のなかでもいちばん好きですね。DVDになったらもう一回観ると思います。いや、ほんと、素晴らしかった。

▼ずいぶん持ち上げますね。しかし、わたしはどうも押井監督の映画が苦手です。『イノセンス』は恋愛映画だと思って映画館まで行ったのですが、わけがわかりませんでした。

▽そういう方でも、今回は大丈夫です。森博嗣さんの原作の影響もあるでしょうが、いままでの押井映画とはだいぶ印象が違っています。何しろ、さきほどもいったように、キャッチコピーが「ショーとしての戦争 終わりのない愛」と来ています。

▼どうせ、お客を惹きつけるためだけのコピーでしょう?

▽そうでもありません。たしかに、わたしも、映画を観る前は「どうせ中身はいつもの押井守だろう」と思っていました。しかし、今回の押井守は新しい。『イノセンス』が押井映画の完成形だとしたら、『スカイ・クロラ』は新生押井守の第一歩といえるでしょう。

▼本当かなあ。

▽疑り深いですね。

▼何しろ、何度もだまされていますから。じゃ、今回は陽気で快活な押井映画なんですね?

▽そんなはずないじゃないですか。ハードボイルドな空気や、娯楽性とは無縁の芝居はあいかわらずです。しかし、今回はそれだけではなくセンチメンタルな雰囲気が加わっています。脚本を伊藤ちひろが努めていることと無関係ではないでしょう。たぶん、あなたはご存知ないでしょうが。

▼それくらい知っています。『世界の中心で、愛をさけぶ』のひとでしょう?

▽そうです。恋愛映画の脚本を中心に書いている方ですね。この方が脚本を書いているおかげだと思うのですが、いままでの押井映画に比べて、わかりやすく仕上がっています。無数の引用と難解な台詞回しに満ちていた『イノセンス』と比べると、比較にならないほどです。

▼でも、あいかわらず、こむずしいのでしょう?

▽それはね。『ハムナプトラ3』に比べたら難解だと思いますよ。しかし、大丈夫。最後まで集中力さえ切らさなければ、一回で理解できるはずです。そもそも、この映画は押井作品としてはめずらしく、若者向けの作品といっていいと思います。若者向けのメッセージに満ちている。

▼へえ。

▽まず、舞台設定そのものがそうですよね。若者たちが大人になることができず、永遠にたたかいつづける世界。これは、あきらかに現代社会の隠喩です。しかも、たたかいつづける敵の正体はわからず、すべては大人たちによって仕組まれている。何とも不毛で倦怠感に満ちた世界ですが、しかたないですね。わたしたちが生きている社会そのものが倦怠感を感じさせるのですから。

▼なるほど。

▽その世界のなかでも象徴的なのが主人公の宿敵である無敵の撃墜王ティーチャー」です。戦争の「ルール」上、絶対に勝てない相手として設定されているともいわれるこの「ティーチャー」は、変えることの出来ない「現実」の象徴だと思われます。クライマックス、主人公である函南くんはティーチャーに対して……ごほんごほん。

▼どうしたんですか。

▽いや、あやうく最後までしゃべってしまうところでした。とにかく良い映画なのでぜひ観にいくべきだと思いますよ。

▼そうですか。でも、次の休日は予定が詰まっているんですよね。

▽何の予定ですか?

▼『崖の上のポニョ』を観にいくのです。

▽って、ジブリファンかよ!

▼ちゃんちゃん。