『5年3組リョウタ組』。

5年3組リョウタ組

5年3組リョウタ組

 作家にもいろいろなタイプがいる。ひとつのジャンルにこだわり、それしか書かないタイプ。あるいは、さまざまなジャンルにわたって才能を発揮するタイプ。

 石田衣良はあきらかに後者に属しているだろう。現代社会のあらゆる問題を切り取って小説化する『池袋ウエストゲートパーク』シリーズを初めとして、金融小説『波のうえの魔術師』、性愛小説『娼年』、演劇小説『下北サンデーズ』、作家小説『チッチと子』、それから多数の恋愛小説など、その活動はいっそ節操がないといいたいほど多岐にわたる。

 最近は恋愛小説の比率が高くなっているが、決してその枠に収まる作家ではない。

 そんな石田が挑んだ初の教育小説がこの『5年3組リョウタ組』。漱石の『坊っちゃん』にインスパイアされたというホットな教育ものである。

 主人公は教職に就いて4年目の良太。とある小学校で教育を続ける茶髪の若者だ。生徒に対しては誠実だが、かならずしも熱血先生ではなく、どこにでもいる「普通の先生」というタイプ。しかし、実は教師として非凡な資質をそなえている。

 そんなリョウタの相棒は、スタイリッシュなルックスのエリート教師。一見するとクールな天才肌の男だが、実は意外な過去を秘めている。

 石田作品の熱心な読者なら、すぐに『池袋ウエストゲートパーク』のマコトとタカシを連想するひと組だ。ホットとクール、ナイーヴとスマート、何もかも正反対のこの凸凹コンビが、現代の教育界を席捲しているさまざまな問題に挑んでいく。

 といっても、派手な問題ばかりではない。リョウタたちに襲い掛かってくる事件とは、たとえば、なぜかクラスを抜け出してしまう問題児だったり、先輩教師のいじめに遭って不登校になってしまった若手教師だったりする。

 解決策もかならずしも即効性のあるものではない。いつもわかりやすい悪役がいるわけではないし、リョウタも相棒も大声で説教するようなタイプではないのだ。

 しかし、自分の欠点をかくそうともせず生徒や親と向き合うリョウタの言葉は、しずかに、たしかに、心に響く。その意味で本書は「泣かせる」小説でもある。しかし、ただ涙を流して忘れられるような底の浅い代物ではない。

 ひたすらにリアルなだけではなく、かといってファンタジィに逃げ込むわけでもない、微妙なラインを狙った作品だといえるだろう。石田衣良としても、会心の出来といえるのではないだろうか。

 そして、クライマックスでは、生徒による放火事件という飛び切りの難問が待ちかまえている。対応しだいでは学校そのものを揺るがしかねないこの大事件に対し、リョウタはどう挑むのか? かれを取り囲んだマスコミに対するリョウタの言葉は熱い。が、熱すぎはしない。

 この絶妙のバランス感覚こそ、石田衣良を現代のベストセラー作家にしているものである。