『コードギアス』の速度。

盟友LDさんとの共同サイト漫研での議題の一つに<<情報圧縮論>>というものがあります。これは、ページ/単位時間あたりの情報量が多い作品が優れた作品の一要素であるというLDさんの持論を発展させたもので、わかりやすさを維持したまま作品内の情報密度を高める大系的な技術が存在するのではないかという仮説なんですね。

ちょうどそんな時に出会ったのがコードギアスという作品です。元々私は熱心なアニメ視聴者ではなく、周囲が盛り上がっている時も遠巻きに静観していたのですが…これはガンダムに匹敵する傑作だよ!という強い友人の薦めがあって(笑)そこまで言うならお手並み拝見しようとゆう事で見た回が、ファンの間でも特に人気がないと思われる第15話「喝采のマオ」だったんですね(笑)。はっきりいって全然わかりませんでした。ロボットアニメと聞いてたのに一切ロボット出てこないし(笑)。

もう1話見てピンと来なかったら諦めるか、と思って見たのがCSで周回遅れで放映されていた第11話「ナリタ攻防戦」だったんですね。ええ、めちゃくちゃおもしろかったですとも。そして、ただ面白かったという以上に、そこに情報圧縮の萌芽を見たんですね。

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 わかるわかる。高密度に圧縮された情報は『コードギアス』の魅力ですよね。

 そもそもこの『ギアス』という作品、展開が異常に速い。1,2話見逃すともう話がわからなくなる。その「速度」がこの作品の長所でもあり短所でもあると思う。

 「R2」の第1話は象徴的だけれど、普通は1話であそこまで話を進めないよね。「R1」最終話の時点で「ルルーシュはいったいどうなってしまったのか?」という謎で視聴者を惹きつけたまま1年間待たせたわけだから、その謎でもっとひっぱるところだと思う。少なくとも浦沢直樹ならそうする(笑)。

 しかし、『ギアス』ではその謎は第2話の段階でほぼ解決されてしまう。この速度こそ、視聴者を強烈に魅了する『ギアス』の魅力だろう。

 しかし、その「速度」が諸刃の刃であることも、多くのファンが感じているところだと思う。過剰なまでに速い展開は物語の薄っぺらさと裏表でもある。

 その欠点のほうが表面に出てしまったのが「R2」第8話「百万のキセキ」。あまりにも速すぎる展開に、視聴者は呆気に取られる結果になってしまった。

 また、第1話にしても、そこまで話を進めることなく、いままでの展開をきっちり振り返りつつ説明していたら、もっと「R2」からの視聴者を獲得できたかもしれない。

 しかし、多くの犠牲を払っても『ギアス』は「速度」を追求する。結果として生まれたのは異常なまでに「速い」エンターテインメント・アニメーション。その「速度」にぼくは魅了されずにはいられない。

 アニメにおける情報圧縮の手法というと、ひとつのエポックとして思い浮かぶのは、やはり『新世紀エヴァンゲリオン』だろう。

 何十冊もの解説本を生み出すほどの膨大な情報量は『エヴァ』のひとつの魅力だった。しかし『ギアス』を見てしまうと、『エヴァ』はもはや王道的にすら思える。

 少なくとも『エヴァ』では、主人公を初めとする各登場人物の心理は実に丁寧に描きこまれていた。ところが、『ギアス』は時にその点すらも飛ばす。

 結果として、作品全体が非常に薄っぺらになってしまっている。だが、その「速度」はそれだけの犠牲を払う価値のあるものだとも思う。

 そもそも、日々、超高度情報化社会で膨大な情報をパラレルに処理しながら暮らしているぼくらは、より濃密な情報に快感を感じるよう出来ている。

 「速さ」こそ正義。鈍重な作品には苛立ちを感じる。たとえば冲方丁の小説『スプライト・シュピーゲル』では、このような文体が採用されている。

「さ――ぁ♪ 答えはどれと思いますかしら? 乙さん、雛さん?」
 少女Aの呼びかけ――通りに面したカフェ。
 同席=少女B+C――反応なし。
「はー……超良い天気。超ばっくれてー」
 少女B=乙――鮮烈な蒼い眼/鋭角的ツインテール/すらりとした脚/青いスカート/ニーソックス/エナメル靴。行儀悪く足を組み、貼るの青空を仰ぐ〝理由無き反抗〟体勢。
 その可憐な唇に、棒付き球体菓子=ロリポップをワイルドにくわえ、ガリガリ齧る。

 日本語としては破綻すれすれ、しかし、おそろしく「速い」文体だ。これもまた「速度」を求める試行錯誤のひとつの解答である。

 『スプライト・シュピーゲル』にはリアリティはかけらもないが、しかし、ある種のカタルシスがある。その意味で、このシリーズは『ギアス』とよく似ていると思う。

 しかし、こういった「速い」作品はしばしばわかりづらく、マニアックになりがちである。したがって、複雑で濃密な作品ほど、骨格はシンプルでなければならないことになる。『ギアス』の魅力はそのシンプルさにもある。

 『ギアス』の骨格は非常に単純である。主人公はひとりの無力な少年。敵は世界最大の帝国。武器は「だれにでも一度だけ命令することができる」能力。これだけ押さえておけば良い。ここにスタッフの創意工夫を感じる。

 これだけおもしろくて視聴率が上がらないというのは、なかなか悲しいことだな、と思う。