冷たい炎。

コールド・ファイア〈上〉 (文春文庫)

コールド・ファイア〈上〉 (文春文庫)

コールド・ファイア〈下〉 (文春文庫)

コールド・ファイア〈下〉 (文春文庫)

 ある日、あるとき、なぜか理由もなくクーンツを読みたくなり、この本を手に取っていた。数ある作品のなかからこの作品を選んだことに特別の意味はない。ただ厚さが手ごろだっただけである。

 この本、主要登場人物リストにはわずか2名の名前しかない。ひとりはホリー・ソーン。〈ポートアイランド・プレス〉の女性記者。もうひとりはジム・アイアンハート。国内各地で窮地の人々を救い続けるなぞの男。

 物語は、「いったいジムは何者なのか?」このただひとつのミステリを巡って進んでいく。シンプルといえば、これ以上ないくらいシンプルな筋立てだ。

 ここまでシンプルだと、ごまかしが利かない。作者の地力がそのまま出てしまう。もちろん、クーンツの筆力は超一流である。次々と事件を起こし、サスペンスを煽り、先へ、先へとぐいぐい読ませてしまう。

 クーンツを読むのは数年ぶりだけれど、あいかわらず、可愛げがないくらい達者なストーリーテリングである。さすがアメリカ屈指のベストセラー作家。

 そして待ち受けているものはいつも通りのハッピーエンド。愛は闇に勝利し、高らかに人生の価値は歌い上げられる。単純といえば単純だが、それを単なる奇麗事と感じさせない力強さがこの作家にはある。

 生きることの辛さ、悲しみ、現実のままならなさを暴き立てる冷めた視線。それがなければ、クーンツの作品はほとんどジュブナイルになってしまっていただろう。

 以前、ある短編を読んだときは、ふしぎな「愛の力」で怪物を撃退してしまう展開に唖然としたものである。ま、いいけど。いいんだけどさ。

 そういうわけで、いつものクーンツとして楽しめるのであるが、特別秀でている点が見つかるわけでもなく、クーンツとしては傑作というほどでもないかな、とも思う。初めから一流だとわかっている作家に対しては点が辛くなりますなあ。

 次は最高傑作の誉れも高い『ウォッチャーズ』を読んでみようかな。