サイレント・ミュージック。

 ああ、そうだ。書いたってなにも変わらない。
 書くことは人を救わない。
 竹田さんがつぶやく。
「さようなら」
 最後の笑顔は晴れやかだった。

 彼女の文章は音楽だ。野村美月のことである。

 彼女の紡ぐ言葉には、軽快なリズムがある。流麗なメロディがある。彼女は、読みすすめることがそのまま幸福であるような、そんな小説を書ける貴重な書き手の一人だ。

 別段、華美な表現で言葉を飾っているわけではない。むしろ、その文体は小説の常識から見れば破格である。それなのに、なぜか、彼女の文章からは甘い音色が聴こえる。

 魔法の秘密がどこにあるのか、ぼくにはわからない。しかし、彼女の作品から、その沈黙の音楽が流れつづけるかぎり、ぼくは彼女を支持しつづけるだろう。

 本書『〝文学少女〟と死にたがりの道化』は、野村の最新作〈文学少女〉シリーズの劈頭を飾る作品。彼女はこの作品で新しい境地に挑んでいる。

 いままでの明るく、あたたかい作風を捨て去り、ひたすらに痛く、切なく、狂おしい物語を紡いでいるのだ。

 その世界への導き手は太宰治。野村は、太宰の『人間失格』を鍵に、一編の、「ひとの心がわからないお化け」の物語を生み出してみせた。

 主人公は、かつて、覆面作家として一世を風靡した過去をもつ少年、井上心葉。いまは平凡な一学生として生きるかれは、高校に入って〈文学少女〉の遠子と出逢う。

 〈文学少女〉とは、本を食べ、物語を味わう妖怪のこと。心葉は、彼女のために、毎日短い物語を書き綴っては食べさせていた。

 そして、そんなある日、平穏な毎日を過ごす二人の前に、一人の少女があらわれる。彼女は、心葉たちを、ひとの心がわからない孤独な「お化け」の人生に誘い込むのだった。

 この作品、端々に野村らしいユーモラスなやり取りが垣間見えるものの、主軸は怖ろしくシリアスである。この作品で、彼女は、人間性の暗黒面への旅路を開始したといえる。

 その旅が成功するのかどうか、それはいまはまだわからない。続刊を買い求めて読みすすめてみようと思う。ぼくが求めるものが、ここにはあるかもしれない。