いちゃいちゃ、らぶらぶ、べたべた、あまあま、でれでれ、えろえろ。

 羽山浩一は病んでいた。女性の顔かたちを確認できない奇病である。

 目鼻立ちはわかる。判別できる。しかし、なぜかそれが一つのかたちにまとまらないのだった。そのため、かれは成人してなお、一人の女性の顔も知らなかった。

 あるとき、羽山は、それまで育ててくれた養父母を事故で失い、実家の本家である倉木家へ赴くことになる。人里離れた山奥に居をかまえるその家は、代々巫女が権力を握る女系の一族だった。

 羽山はそこで一族の当主に任命され、逢ったこともないいいなずけと夫婦になるよう命じられる。そして、その少女、鈴菜と出逢ったとき、初めて女性の顔を識別できるようになった自分に気づくのだった。

 いったい何が起こっているのか? なぞと怪異に満ちた物語が始まる。

 と、そういうわけで、オービットのヒット作『顔のない月』である。累計で10万本を売り上げたという有名作品であるが、ぼくは初めてプレイした。

 結論から書くと、実にぼく好みのえろえろな作品であった。キャラクタといい設定といい、そしてその妖しい雰囲気といい、実にぼくの趣味。いやもう、こういう作品は大好きですね。

 もともと絵柄が美しいというだけの理由でプレイしてみたのだけれど、これは掘り出し物だったかも。耽美でエロティックなポルノグラフィである。

 作品の系統としては、『痕』に連なる伝奇ものということになるだろう。物語に舞台は山奥にそそり立つ広大な洋館。恩師に引きずられるようにしてそこへ連れてこられた主人公は、女たちが支配するなぞめいた一族の当主に任じられ、「月待ちの儀」と呼ばれる不可思議な儀式に参加させられる羽目になる。

 まさに伝奇小説の王道ともいうべき展開だろう。この種の作品には欠かせないセックス&バイオレンスも十分。一度はまりこんだらしばらくは楽しめる。

 欠点としては、あまりにもほのめかしに満ち、なぞが多い展開が挙げられるだろうか。注意深く物語を追いかけていないと、最後まで読んでもなお、いくつかなぞがのこってしまう。

 ただ、きちんとテキストを追っていけば、何が起こったのかわかるようにはなっている。決して適当な展開というわけではない。

 システム的には完成度が高く、プレイしていて不便を感じることはなかった。もっとも、ネットを検索してみると、最初に発売されたCD−ROM版ではシステムの不備が少なくなかったという。

 おそらく、この洗練されたシステムは、DL版に至るプロセスで洗練を重ねた成果なのだろう。だが、とにかく、このDL版ではこの種のADVに必要な機能は一通り搭載されている。攻略用のチャートまで付いている親切さである。

 音声は当然のようにフルボイス。しかもその筋のひとにとっては垂涎ものの豪華声優陣が採用されているようだ。ぼくはその方面にくわしくないので、よくわからなかったが、各声優ともすばらしい好演を見せており、この点で違和感を抱くことは全くなかった。

 男性陣にもきちんと音声が用意されている辺りもありがたい。男性の声はいらないというひともいるかもしれないが、性別ごとに音声のオン/オフが用意されているから心配ない。

 出来れば主人公の声も用意してほしかったところだが、それは無いものねだりになるだろうか。

 そして、この作品の最大の魅力といえば、やはり華麗をきわめるグラフィックになるだろう。背景もなかなかのものだが、人物のCGはそれはもう綺麗。この点では、最初の発売から8年が過ぎたいまでも最高水準にあるといっていいと思う。

 また、主人公を初めとして、作中に登場する人物はほとんどが美青年、美少年、美女、美少女と来ているので、そういう意味では非常に目に楽しい作品である。

 おそらく後からシナリオが追加されているおかげもあるのだろう、シナリオの分量も十分以上。たった2940円でこの量は安い、というくらいのボリュームがある。

 主なヒロインは3名だが、後からさらに2名のルートが追加されている。エロシーンだけでも80箇所以上あり、陵辱から和姦まで一通りのシチュエーションがそろっている。そういう面で不満を抱くひとは少ないと思う。

 ただ、ハードなバイオレンスを期待する向きには、甘ったるい展開に感じられるかもしれない。Amazonでも指摘されているように、この作品、どこか少女漫画めいた甘やかさがある。

 主人公である羽山は女たらしの大学生だし、メインヒロインの鈴菜は気のつよい美少女。どこか昔の少女漫画で読んだような設定である。

 初め、二人は押し付けられたいいなずけ関係に反発しあうが、あるとき、ふしぎな力に操られるようにしてからだの関係をもってしまう。そこから先はもう、ひたすら甘ったるい展開が続く。

 羽山に対し警戒心をかくさない鈴菜ではあるが、彼女のからだは儀式のたびにうずく。それを鎮められるのは羽山だけ。何度となくからだを重ねるうちに、二人は激しい恋に落ちていく。

 世間知らずのわりに口が悪い鈴菜は、典型的な「ツンデレ」キャラだが、「ツン」状態のときも痴話げんかをしているようにしか見えないあたりがすごい。

 初めは口汚く羽山をののしっていた彼女が、溶けるようにして恋とセックスに溺れていく展開は絶品。鈴菜かわいいよ、鈴菜。そうとう人気があるキャラクタらしいが、ぼくも好きだ。

 そのほかのヒロインは屋敷に仕える二人のメイド。あくまで鈴菜がメインヒロインであることに変わりはないが、彼女たちのシナリオでも物語のなぞは少しずつ明かされる。エロティックな場面も山盛りで楽しめると思う。

 それから、めずらしいところでは、少女のような美少年が一人出てくる。で、これがやたらにかわいい。ある意味、ヒロインたちを上回るほどの凶悪なかわいさ。

 このキャラクタにかんしてはご都合主義を絵に描いたような展開が続くのだが、ま、エロゲだからなあ、エロければいいか。羽山×メイド×この子の3Pはいろいろとすごかった。

 一方、各ヒロインには鬼畜ルートも用意されている。このルートでは、妖しい力に屈した羽山は、欲望のうながすままに女たちを犯していくことになる。

 しかし、とにかくCGが抜群に綺麗なので、あまりグロテスクな印象は受けない。そういう場面が苦手なひと以外は問題なく楽しめると思う。

 そしてまた、さらにこのDL版には「外伝」が2本収録されており、本編の後日談を読むことが出来る。もともと独立したソフトとして販売されていた作品である。

 その頃は、この2本を読むためだけに数千円を払わなければならなかったようだ。そういう意味でも、このDL版は非常に安価だと思う。いや、もともとエロゲが高価すぎるのかもしれないが。

 とにかくまさに至れり尽くせり、ここら辺は何度も販売をくり返して洗練された「完全版」の強みだろう。仕方ないことではあるが、最初のCD−ROM版を購入したひとたちは少し可哀想かもしれない。

 そういうわけで、全編、エロスとバイオレンスに満ちた良作である。善人には程遠いがかといって悪人でもない主人公はいい味を出しているし、それぞれに暗い宿命を背負ったヒロインたちも魅力的。たぶん、女性でも楽しめるひとは楽しめるんじゃないかな。

 暴力的な場面も多いが、個人的に最も印象的だったのは、羽山と鈴菜のいちゃいちゃ、らぶらぶ、べたべた、あまあま、でれでれ、えろえろな日常生活である。

 そういう意味では、甘ったるい展開と暴力的な展開を一作で楽しめるお得な作品なのではないだろうか。ひたすらにエロティックな伝奇ものが好きなひとにお奨め。販売はここ