『漫画をめくる冒険』解説。


 いずみのさん(id:izumino)から『漫画をめくる冒険』の第二刷が届きました。先日ちょっと書いたとおり、この版からはぼくの解説が掲載されています。宣伝も兼ねて前半だけ掲載しておきます。

 あなたは視力が良いほうだろうか。ぼくは両目とも最低に近い。めがねなしではろくに目の前の文字も読めないありさまである。もしあなたがぼくより少し良い視力のもち主なら、ほぼ確実にぼくより鮮明な世界を見ていることになる。

 もっとも、それはあくまで数字の話。ぼくの世界とあなたの世界を取り出して比較する方法はない。「視力」を比較することはできても、その数字が具体的にどのような世界を示しているか、確認するすべはないのである。

 ぼくたちはひとりひとり異なる視点から異なる世界を眺めている。

 本書『漫画をめくる冒険』上巻は、その「視点」をめぐる画期的な漫画批評書。「めくる」とは「めぐる」の誤字ではない。本書は漫画が文字通り「めくる」メディアであること、本というかたちで出版されているということから出発している。

 パソコンやモバイルをもちいたデジタルコミックが普及しはじめているとはいえ、現在でも大半の漫画は書籍のかたちで発表されている。常識といえば常識である。

 しかし、著者はその常識のかげに潜んだ盲点を明らかにし、予想外の方向に話を展開していく。そのロジックは名探偵さながらの明晰さ。しかも、あくまでも読みやすく、わかりやすい。

 この分野の最先端を往く専門的内容であるにもかかわらず、それこそ「漫画を読むように」すらすらと読める。いや、ほんと、こんなに読みやすい批評書があっていいのかと思うくらいですね。

 そして、この点もまたすぐれた漫画に似て、本書では読みやすさと内容の深さが同居している。本書を苦もなく読み進めていった読者は、最後の一ページまで読み終えたあと、自分がたどり着いてしまった地点に呆然とするかもしれない。巧みな案内人に導かれるまま、目もくらむ高峰にのぼり詰めてしまった登山家のように。

 断言する。もしこれから本書を読むなら、その行為によって、あなたの漫画に対する考え方は、二度とはもとに戻らないかたちで変化するだろう。

 すくなくともぼくはそうだった。正直にいうと、本書を読みすすめるうち、くやしくてたまらなくなった。自分に腹が立った。著者と同じ作品を読みながら、いかに多くのものを見のがしていたか、はっきりと思い知らされたからだ。

 勝負にたとえるなら完敗。しかし、心地よい敗北だった。そこには発見のカタルシスがあったからだ。まさか『School Rumble』にこれほど深い読み方があったとは! 何気なく一読して理解したつもりになっていた自分を思い出すと赤面せざるを得ない。

 シリアスとコメディ、少年漫画と少女漫画、最近の作品と古典的名作、そういった諸々の垣根を軽がると越え、一見何の関係があるのかわからない作品が結び合わされる。

 あなたは『School Rumble』と『YAWARA!』のあいだにある共通項がわかるだろうか? 『昴』と『スプリンター』の密接な関係が見えるだろうか?

 もし、こたえが「否」なら、ぜひ本書を読むべきだ。著者が発見し、ぼくが見せてもらったものを、あなたも見ることができるだろう。

 実はこの解説はこのあとが本番だったりするのですが、ま、それはぜひ本書を買って読んでください。

 この本、身びいき抜きでおもしろいです。漫画の読み方が変わります。今日からメロンブックスに委託が始まるので、未読の方はこの機会に入手してしまいましょう。くわしくはここ