アーサー・C・クラーク追悼。

 そんなことがおこるだろうとは百年にもわたって予測されてきたし、虚報も数々あった。それでいながら、とうとうそれがおこったとき、人類はびっくりしたのだった。

『楽園の泉』

 アーサー・C・クラークが亡くなったそうですね。このサイトでも何回か取り上げていますが、本当に偉大な作家でした。

 おそらく、SF作家としては世界でいちばん有名なひとだったでしょう。お悔やみを申し上げる、などという表現があらゆる意味でふさわしくないひとなのでそれはやめておきますが、喪失感は大きなものがあります。

 幸い、というべきかどうか、その代表作は数年前から復刊が進んでおり、いまではほとんどの作品を読むことができます。

 光文社の古典新訳活動で『幼年期の終り』が出版されたことも記憶に新しいところですね。

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

 その華麗なキャリアのなかからあえて1冊選ぶなら、ぼくの場合、『宇宙のランデヴー』になるかな。

宇宙のランデヴー (ハヤカワ文庫 SF (629))

宇宙のランデヴー (ハヤカワ文庫 SF (629))

 ヒューゴー賞とネヴュラ賞の同時受賞、いわゆる「ダブルクラウン」を果たした名作です。良くも悪くもこれほどクラークらしい作品はないでしょう。

 宇宙の彼方からなぞの飛行物体が飛んでくるところから始まり、ひたすら「ラーマ」と名づけられたその物体の探検が描かれるだけの物語ですが、少年向け冒険小説的なワンダーに満ちあふれています。

 どこまでも読みやすく、わかりやすく、しかも何ともいえず美しい――クラーク一流の世界です。そして、そのラスト一行!

 「SFって何となくむずかしそう」と思っておられる方も、問題なく読めると思います。

 一方、その『宇宙のランデヴー』と双璧をなすのが、やはりダブルクラウンを獲得した『楽園の泉』。

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

 軌道エレベーター建設に宗教や異星人や古代の物語を絡めた盛りだくさんな一冊。正直、細部は忘れていますが、クライマックスの美しさはいまも強い印象をのこしています。

 クラークの文章はとくに詩的でも凝っているわけでもないのだけれど、何ともいえず美しい。科学を愛し、宇宙を愛し、人類の輝かしい未来を信じた作家――齢90歳の大往生とはいえ、惜しいひとを亡くしました。

 もう二度とこんな作家は現れないでしょう。