『犯罪ホロスコープ(1) 六人の女王の問題』。

犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス)

犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス)

 朝食が済んでから、綸太郎はその人物を自分の部屋に呼んで、
「あなたは、ギリシャ神話に詳しいですか?」
 とたずねた。相手は無言で首を振った。

 天下の寡作作家法月綸太郎、待望の新刊である。

 一冊前にあたる『怪盗グリフィン、絶体絶命』が出たのが二○○六年の三月だから、まだ二年も間が空いていない。日本が誇る寡作推理作家としては、まず順当なペースといえるだろう。

 皮肉でなく、あとがきにも書いている通り、「最低の時期に比べれば、少しはマシになってきた」らしい。ファンとしては実にありがたいことで、今後もこの調子でお願いしたいものです。

 本作はエラリー・クイーンの『犯罪カレンダー』に倣い、十二の星座にちなんだ十二の事件を並べた短編集。もっとも、本来なら十二ヶ月ぶんそろうべき事件は、本書には半分しか収録されていない。

 元ネタである『犯罪カレンダー』が、日本では六ヶ月ずつに分かれていることに倣ったというのは言い訳で、十二ヶ月そろう日を待っていたらいつになるかわからないから半分だけ出してしまったらしい。

 いかにも法月綸太郎らしい話で、ほほえましい、かなあ。判断に迷うところです。ま、とりあえず1冊でも出たんだからいいか。

 もちろん、出るだけで内容が伴わなければ出てもどうしようもないわけだけれど、そこも法月綸太郎らしく、堅実な仕上がりとなっている。

 「始めにコンセプトありきの企画ものなので、なるべく話が重くならないように配慮」し、その結果、「これまで以上に言葉遊びと、様式的なパズルの占める割合が増している」という作者の言葉がすべてだろう。

 このひと、一流の批評家をかねているだけあって、自分で自分の作品を解説してしまうものだから、ブロガーの出番がなくて困る。

 そういうわけで6編だけしかない収録作中、白眉にあたるのは、端正な犯人当て小説「ゼウスの息子たち」だろうか。

 法月綸太郎が偶然に訪れたホテルで例によって殺人事件が起き、被害者は「偽者にやられた」という言葉をのこして死亡する。その夜、推理に耽る法月の部屋を容疑者たちが訪れ、さまざまに証言する。双子ものの盲点を突くロジックがお見事。

 この小説は連載時、読者から真相当てを公募した。あとがきによると、二〇人の回答者中九人が正解をあてたらしい。

 作者はそれを理由に「犯人当てとしては初歩的」と書いているが、読者が犯人を当てられるからにはきちんと証拠が示してあるわけで、ミステリとしては合格点といっていいだろう。

 あとは後編となる『犯罪ホロスコープ(2)』が1日も早く出ることを祈るのみである。