『恋愛小説ふいんき語り』語り。

恋愛小説ふいんき語り

恋愛小説ふいんき語り

 出版社からいただいた一冊。

 以前にも書いたけれど、ぼくはくれるものはもらう主義、もしここで取り上げてほしいという出版社がありましたら、これからも話を持ちかけていただきたいものです。記事の内容までは保証出来かねますけれど。

 いや、ま、焼肉でも奢ってくれたらいくらでも記事を粉飾する準備は出来ているのですが、そういうお話はないようです。ざんねん。

 さて、本書『恋愛小説ふいんき語り』は、そのタイトルからもわかる通り、世にあふれる恋愛小説をかたっぱしからまな板に乗せ、包丁一閃、ざくっと料理してのけた一冊。

 素材をまえに腕をふるう板前は三人、麻野一哉、飯田和敏、そして、米光一成。毎回、一冊の本を取り上げ、ああでもない、こうでもないと延々しゃべりたおす。

 取り上げられている作品は、瀬戸内寂聴から山田詠美まで、『わすれなぐさ』から『恋空』までと、実に幅広い。

 ネットの書評はただ一色に良いの悪いの傑作だの駄作だのと語ることになりがちだけれど、この本の場合、それぞれに人生も価値観も異なる三人が集まったことにより、意見が割れることがおもしろい。

 問題は、ぼくがふだん恋愛小説を読まないこと。ここで取り上げられている20冊のなかで既読の作品は村山由佳の『天使の卵』くらい。繰りひろげられている論戦の、いずれが正しくいずれがおかしいのかわからない。

 いまさらながらに自分の読書傾向が片寄っていることを思い知らされた形ですが、しょせん時間は有限、そこを反省してもどうしようもない。仕方ないからその『天使の卵』のことについて書くことにしよう。

 お三方の評価は決して芳しくないわけですが、ま、ぼくもその評価は妥当だと思う。どこまでも甘くセンチメンタル。読書ジャンキーに読ませるにはいかにも毒が足りない作品ではある。

 ただ、この作品、村山由佳最大のベストセラーではあるけれど、でも、決して最高傑作ではないんだよね。むしろ、村山のキャリアで最も凡庸な小説かもしれない。だから、この一冊で村山由佳を評価してほしくないという思いは、ある。

 村山の世界は、『天使の卵』以降、そこにある青臭さとセンチメンタリズムはそのままに、より暗く、より激しい世界へ進展して行くことになる。決して清純だの純愛だのといった奇麗事では済まない熱病めいた情熱のうずへ。

 そのひとつの結実が、直木賞受賞作『星々の舟』。そこには、もはや、『天使の卵』の、あのうそ臭い清潔さはない。

星々の舟 Voyage Through Stars

星々の舟 Voyage Through Stars

 ぼくの場合、村山の作品から一作薦めるなら、『すべての雲は銀の…』を選ぶ。

すべての雲は銀の… Silver Lining〈上〉(講談社文庫)

すべての雲は銀の… Silver Lining〈上〉(講談社文庫)

 恋愛小説とはいえないかもしれない。兄に恋人を盗られた傷心の青年が、牧場暮らしのなかで心を癒やしていく、ただそれだけの物語である。

 と、こう書くといかにも陳腐な設定だけれど、しかし、何ともふんわりと柔らかい空気、そして気取らないいたわりとやさしさが心地よい。珠玉の、とまでは行かないにしても、実にあたたかく、心地よい作品だ。

 優しい作品を読みたい向きにはお奨め。