有栖川有栖、未だ、衰えず。

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

 『女王国の城』。

 『月光ゲーム』、『孤島パズル』、『双頭の悪魔』に続く、〈学生アリス〉シリーズ第四弾である。

 前三作は、いずれも、作家有栖川有栖のキャリアを代表する秀作だった。それでは、十五年の月日を経て、遂に上梓されたこの作品はどうか。

 結論からいうと、大傑作とまでは行かないにしても、十分にベテランの真骨頂を感じさせる出来栄えだった。

 正直、読むまえは期待と不安が半ばしていた。たしかに、このシリーズ自体は秀抜な出来ではある。しかし、それも、何といっても十五年前の偉業に過ぎない。

 いまの有栖川有栖に、ふたたびあの迷宮世界を再現することが出来るものだろうか、と、少々、懐疑的な態度で読みはじめた。

 それでも、言葉が積もり、物語が進み行くに連れ、懸念は消え去り、最後まで楽しく読み上げることが出来た。

 何しろ原稿用紙一千二百枚の大作、一面、冗長なところがないわけではない。しかし、この十五年で磨き上げられた「語り」の技巧はさすがに凡庸ではなかった。

 今回、第四の殺人劇の舞台に選ばれた場所は、「女王」が支配する「城」。ある一人の美少女を教祖と崇め、宇宙人の到来を待ちわびる宗教団体の本部である。

 その施設がある村に旅立ったあげく、帰ってくる気配がない部長の江神を心配したミステリ研の部員たちは、かれの跡を追いかけて行く。自分たちもまた、江神と共に、その「城」のなかに閉じこめられてしまう羽目になるとも知らずに。

 簡単に入ることは出来ず、一旦入ってしまえば、今度は、出ることが出来なくなるなぞめいた「城」。そのモデルは、カフカの『城』にあるらしい。

 しかし、もちろん、この作品は不条理文学ではなく、本格推理小説である。積もり積もった数々の謎は、名探偵による白刃一閃の名推理で解き明かされることになる。

 古式ゆかしい「読者への挑戦状」を挟んだあと、のこり50ページから始まる解決編は圧巻。それまでばらばらに存在していた複数の事象が、論理の糸によってつなぎ合わされ、唯一の結論を導いていく。

 十数年前の密室殺人の秘密とは? 凶器は、警戒厳重な「城」に如何にして持ちこまれたのか? そして、犯人の犯行方法は? すべてが既出の情報をもとに明らかにされて行く。

 その冴え、その切れ味は、『孤島パズル』や『双頭の悪魔』に劣るものではない。有栖川有栖、未だ、衰えず。願わくは、シリーズ完結編となる予定の第五弾が早々に発表されますように。

 それにしても、椎茸、推理と関係なかったな。拍子抜け。

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

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孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

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双頭の悪魔 (創元推理文庫)

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