- 作者: 加納朋子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/07/26
- メディア: 単行本
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これが実にキュートな仕上がりで、男性にも女性にも、大人にも子どもにも問題なくお奨め出来る。某摩耶雄嵩あたりと違って、子供に読ませても心に傷を作る心配はありません。
もっとも、純粋に本格推理として見るともうひとつもの足りないかも。有栖川有栖のように精緻なロジックがあるわけでもなく、島田荘司のように破天荒な奇想があるわけでもない。
ある種のサプライズトリックは用意されているものの、それほど印象は強くないと思う。
しかし、そのあたりの甘さは絶妙な語り口が補っている。もともと巧い語り手ではあったけれど、『てるてるあした』あたりからさらにいっそう磨きがかかってきている気がする。
読むものの心をぎゅっ!とつかむ、自然な語り口は、「ミステリーランド」の全作品でも一、二を争うだろう。
ジュヴナイル小説にふさわしく、主人公は小学5年生の男の子。よくいえば活動的、悪くいえば乱暴。
なぜわざわざ木にのぼって落ちては怪我をしなければならないのか? そこに木があるからだ、というタイプ。
いつかりっぱな冒険家にならないともかぎらないが、とりあえずいまのところは、ただの小さなきらわれ者に過ぎない。そう、パックに出逢うまでは。
ひっこし先の九州で、かれは「パック」と呼ばれる不思議な子供とめぐり会う。
しょっちゅう高いところにのぼっては、口笛を吹いているなぞめいた少年。家もなく、親もなく、たったひとりでくらしているらしい。
まだ小さな子供がどうやってそんなふうに生きているのか? 存在そのものが魅力的な「謎」であるこの少年は、しかしみごとな推理でさまざまな「謎」を解き明かしてしまう。
「パック」という名前は、もちろんシェイクスピアから採ったものだろうが、その自由な生き方はむしろ、トム・ソーヤーの友人、ハックルベリィ・フィンを思わせる。名探偵にして子供たちの王子。
ただ、それじたいはファンタジィのようなパックの生き方に裏にかくされている秘密は、そうとうに重い。そういう意味では、けっして、甘ったるいだけの物語ではない。
また、大人の目で見てみると、作中の大人たちの描かれ方が気になる。自分を縛りつけようとする大人たちに、主人公は片端から反発してまわる。
いたけだかな父親、口うるさい母親、ひとの名前を間違える教師――しかし、彼らは本当に見た目通りの人間なのだろうか。
いつも偉そうな父親が、かなしそうに事故で死んだ友人の話をしたのはなぜだろう。そこから、子供にはまだわからない、一筋縄では行かない人間のすがたが垣間見えないだろうか。
作中では答えは出ない。それもまたひとつの、魅力的な「謎」である。