恋と革命。

さよならピアノソナタ (電撃文庫)

さよならピアノソナタ (電撃文庫)

「少年は、人間がなんのために生まれてきたか知ってる?」
 なんだよいきなり。知るかそんなの。
「答えは簡単。人間は恋と革命のために生まれてきたんだ」

 忘れてください、と、その少女はいったのだった。六月になったら消えるから、だからわたしのことは忘れてください、と。

 音楽評論家の父をもつ少年ナオは、ある初秋の日曜日、「心からの願いの百貨店」と名づけたがらくた置き場で彼女、蛯沢真冬と出逢った。

 そのまえからよく知っている顔ではあった。そのととのった顔立ちと、早熟な技量で知られる天才少女ピアニスト。ボーイ・ミーツ・ガール。

 そして、その数日後、ナオの学校に転入してきた真冬は、それまでかれがかってに使っていた空き教室を占領し、ギターの早弾きに没頭しはじめた。

 たしかに美少女ではあるし、その腕前は天才的ではある。しかし、そのひとをひととも思わないような態度は、ナオを憤慨させるに十分すぎるほどだった。

 真冬を「ぶっとばし」、奪われた教室を取り戻すために、ナオは「民俗音楽研究部」の先輩とともに、ベースの練習にいどむ。しかし、真冬はかれも知らないある事情を抱えていたのだった――。

 というわけで、また杉井さんから本が送られてきたので、取り上げるよ。

 作家杉井光にとって第三作にあたる『さよならピアノソナタ』は、タイトルと表紙と惹句とあらすじから察しがつくとおり、それなんてエロゲ?なリリカル・ストーリー。

 昔、杉井家にエロゲを送りつけようと画策したものの、杉井家のPCスペックではどのゲームも動かないという壁をまえに挫折した経験をもつぼくとしては、なかなか感慨深い。こともない。

 天才ピアニスト(兼ギタリスト)のツンデレ美少女をヒロインに据えたところからもわかるように、今回は正面から音楽を扱っている。そこがこの作品の売りどころだろう。

 もちろん、小説で音楽を表現しきることは原理的に不可能であるわけで、だからこそ、この手の作品を書く作家にはそれなりのセンスと、テクニックが要求される。空中を飛びまわる音符を捕まえ、無理やり言葉の檻に押し込んでしまう豪腕が。

 さて、それでは本作はどうかといえば、とりあえずそつなくまとまっています。でも、もうひとつ、インパクトに欠けるかなあ。

 クラシックからロックまで、あらゆる音楽にかんするうんちくやらエピソードやらはおもしろい。でも、あまりにまとまりすぎている気がする。何かこう、過剰なものが欲しいところ。合格点ではある、というか、合格点でしかない、というか。

 たとえば有川浩あたりは、それほど小説が巧いとも思わない。でも、彼女が彼女だけの世界を生み出していることはたしかで、だからこそ、ほかの作家と比較してどういうという気にはならない。

 しかし、こういう作品だと、設定や展開に既視感があるぶん、トップクラスの作家と比較して考えたくなってしまうんだよね。

 やっぱり石田衣良とか橋本紡はとんでもなく巧いわけで、この路線で行くならあれくらい破格に巧くないと評価が下がる気はする。あるいはもっとワンポイントを強調して個性を打ち出していくか。

 小説はむずかしい。ぼくにはよくわかりません。